03.がむしゃらに欲しがる想い

「曹丕」
と聲をかければ何事か打ち合わせをしているようだった。
三成の聲が届いたらしい曹丕は、侍従に手を上げ、下がらせた。
その立ち居振る舞いが実に様になっていて、つい魅入ってしまう。
戦場でもその優美さが映えるのだから、ああ、俺以外にもこの仕草に
魅入られるものがいるのだろうと云う危惧は不安などでは無く
最早確信であった。三成からしてみれば気が気で無いが、
やれ本陣にいろ、下がれ、単騎で奔るな、と口煩く云っても
それが叶えられるのは五回に一度程度というのだから、
目も当てられない。挙句に、にやりと口端を歪め三成に
哂ってみせるこれはもう性質の悪い確信犯だ。
三成はそんな曹丕の様子に文句の一つでも云ってやりたいが
結局何も言えないまま終わる。

(惚れた弱みなのだ)
どだい曹丕はもてる。
何せ曹丕はかの美姫を妻にしているし、
その上曹家は一筋縄ではいかない曲者揃いだ。
その中でも一際異彩を放つ曹丕を周りが放っておく筈も無かった。
かくいう自分も曹丕に惹かれた一人なのだからたまらない。
これほど一人の人間を欲したこともましてこのような恋情など
抱いたことも無い三成である。
戸惑うのは当然のことであった。
しかし三成は有能である。
課せられた任務を着実にこなし、現在は魏において
曹丕の片腕として認められるほどになった。
司馬懿という強敵も居るので尚のこと手は抜けない。

(お前が、)
曹丕を見つめる。
薄い色の眼がたまらなく三成を誘う。
(お前が俺だけいればいいと云えばそれで)
視線を絡めれば曹丕が薄く哂い
眼を閉じた。
(それだけで全てを賭けられるというのに)
無論、そうでなくとも全てを賭けるだろう。
どこまでも孤独で、愛や情を拒絶する
孤高の男、その身に纏う
怜悧で美しい棘の一つ一つを三成が
丁寧に抜いていく。
その作業を延々と繰り返して漸く手にした存在だった。
だからこそ三成は曹丕が愛しいし、
手放すなどできよう筈も無い。
結局魏の陣営に留まっているのはこの理由ひとつなのだ。

たまらず曹丕を壁に押し付け唇を貪れば
心地良さそうに曹丕の喉が鳴った。
吸うように優しく、徐々に深く激しくすれば曹丕の身体が
跳ねる。熱い口付けを交わしたところで、
近くに曹丕を呼ぶ聲がした。
三成から離れ何事も無いように曹丕は少し乱れた衣服を整え、
相手と会話をする。
三成はそれを見つめ、不意に曹丕と視線を交わした。
交わした視線は熱く、三成を求めているような情欲が
潜んでいる。

あとで、と視線を流した曹丕に
三成は頷き何事もなかったかのように廊下を歩く、
残るのは絡ませた指、熱い舌、麗しい肌、
それを想い三成は仕事を片付ける。
何のことは無い、欲しがっているのはお互いなのだ。

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