02:人魚の恋
※OROCHIの設定です。

「人魚?」
問い返した男に三成はにやり、と哂い
言葉を続けた。
「その肉を食らうと不老不死になるそうだ」
その言葉に曹丕は薄く笑みを浮かべた。
「その話なら何かの書物で読んだな」
「しかし莫迦莫迦しい話よ」
「まあ、確かに絵空事だが、」
三成もその話を聴かされた時そう思ったが、
しかし曹丕がそれにどんな反応を示すのか知りたかった。

「何、この世界には遠呂智や仙人まで居るのだ、
あながち本当かもしれぬ」
「確かに否定はできぬな、」
その後に『莫迦莫迦しいが』と付けるのが如何にも曹丕らしかった。
「仮に、だ、先ほど食べたものが人魚の肉であったならばお前は
どうする?」
「成る程、私は既に不老不死か」
曹丕も興に乗ってきたのか、問答が気に入ったのか、
機嫌が良さそうに三成を見た。
「そうだ、お前は不老不死だ、さてどうする?」
曹丕は少し考えてから口を開く。
「変わらぬ」
「変わらない?」
「ああ、何も変わらぬ、父の跡を継ぎ、政を行い、世を正し、
民の暮らしを安定させる」
当たり前と云えばそうなのだが、些かつまらない返事に、
三成は眉を顰めた。

「では、お前ならどうする?」
「俺か?」
「そうだ、お前とて先程一緒に食事を取ったでは無いか、
人魚の肉を食らって不老不死になっていても不思議はあるまい」
成る程、その通りである。
自分に振られるとは思ってもみなかった。
「・・・矢張り、俺も変わらぬな」
「フン、くだらぬ奴め、お前とてそうではないか」
そうだ、曹丕の云う通り、三成も変わらない、
世を正し、民の安寧の為に今までと変わらず生きるのだろう、
「そのようだ」
お茶を啜りながら、さあ、今から政務の続きを、
というところで曹丕が三成の背に言葉を投げた。
「だが、」
突然投げられた言葉に三成は振り返る。

「全てが終わり、何もするべきことが無くなったのなら、
そうだな、お前と世界を渡り歩くのも悪くないやもしれぬ」
驚き眼を見開く三成に、曹丕はしてやったりと口端を歪めた。
言葉を租借し、三成は曹丕に笑う。

「ああ、その時は俺もお前と行くと約束しよう」

何せ不老不死だ、
時間はいくらでもある、
その悠久の時間をお前と渡り歩くのなら、
それも悪くない、
この男と生きるのなら、不老不死も悪くない。
そんな悠久を想い、三成は傍らの相手に笑ってみせた。

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