03:魔女の恋

云わばこれは魔女に唆されたのだ。
と三成は忌々しげに眼を閉じた。
魔女に云われなければ誰がこんなところへ
来るものか!
そう自分は被害者なのだ、
何が悲しくてこんな片田舎まで飛ばされたのか、
豊臣家の使いとはいえ、流石の三成も
こんな山奥とは思っておらず、
「全く何が山の幸フルコースに豪華温泉付き、お洒落な旅館だ・・・!」
おねね様という魔女の言葉に騙されてこんなところまで
来て仕舞った自分に改めて溜息を吐いた。
目の前には古びた家屋の寂れた旅館が一件である。

「失礼、豊臣の使いだが・・・」
半時ほど待たされて漸く店の主らしい男に取次を頼み
通された離れの部屋は随分広い部屋だった。
思ったより造りは確りしている。
重厚な梁が歴史を感じさせた。
三成からすれば古びた屋敷なのだが、
見ようによっては格式の高い歴史ある屋敷なのだろう。
寂れているという点はもうどうしようも無いが。
目当ての人物はどうやら作家かなにからしい、
何かの先生だそうだった。

「お待たせして申し訳無い」
形式通りの挨拶をして顔を上げたところで
三成は、はっ、とした。
「・・・」
否、絶句したという方が正しいのかもしれない。
目の前に座る男は美しい。
女のような美しさでは無いが三成が今まで出会った
どのタイプにも当てはまらない、不思議な美しさだった。
まだ若そうな男だ。
名を曹丕という。
「失礼、豊臣からの使いで参りました者です」
おねね様から持たされた包みを渡せば
男はそれを丁寧に机に乗せゆっくりと風呂敷を解いた。
その仕草が洗練されていてあまりにも美しいので
三成はぼお、と見つめるだけで言葉にならなかった。
曹丕は包の中身を確認し、中の書を丁寧に開いて
目を通した。よく見れば眼は青のようだった。
ハーフなのかもしれない。
「内容は分かった。返事を認めるので少しお待ち頂きたい」
その言葉に三成は頷き、そして確信する。

恐らく、豊臣に於いて今この男は最も重要な手札なのだろう、
政治的に於いても未だ内乱の続く世だ。
それを制する為に必要な人物なのだ。
曹、という名から連想するに相手は中国の重鎮なのだろう。
何の理由で手元に置いて隠すようにこんなうらぶれた田舎に置いて
いるかまでは三成には知らされていないがそういうことなのだ。
そしてこれから先、三成はこの男と行動する。
豊臣に連なる者の中でわざわざ三成を指名したのはそういうことなのだ。
曹丕に出逢って芽生えた想いに、三成は胸の内で舌を打った。
おねね様は此処まで読んでいたのだ。
三成が曹丕に出逢い確信すること、必ずこの男の手を取ることを。
すっかり見透かされている自分に苛立ちが募る。
しかしそれ以上に価値のある目の前の男に、
ああ、
これから来たる、波乱の慟哭に
三成は想いを馳せ目の前の美しい男を見た。

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