07:やもめの恋

その姿に心奪われたのは何も自分だけでは無い。
自分だけでは無いだろう、だが、いい歳をして
独り身の男が、遊郭に嵌るというのも如何にも
ありがちな気がして気がめいる。
しかし襖がゆっくり開かれれば、待っていた相手の
顔に三成は、ほお、と息を漏らした。

曹丕と呼ばれる遊女は正確には男だ。
どういった経緯で遊女になったかは知れないが、
曹丕はもう随分長くこの町に溶け込んでいるようだった。
相手は様々だ。大名や大商人、三成とてそれなりの武家で
あったから通いが赦されたものの、曹丕はそこらの遊女と
違い、花魁級の格の高い男であった。
美しい容姿に絹の髪、仕事の時は女の成りをしているが、
三成がそれを嫌った為、曹丕はいつものごてごてとした
衣服では無く曹丕に良く合った、唐物の着物を着ていた。
というのも初めて遭ったのが男の時だったからだ。
たまたま共を連れて曹丕が歩いていたのを、知人に連れられて
花町まで着ていた三成が見初めた。
後は惹かれるままに曹丕の所在を捜し、今に至る。
分り易いといえばそうだが、この男と遭うには大枚が必要だった。

「お前も懲りぬ男だ」
曹丕が煙管の灰を落とし哂った。
もう何度目になるのか、出逢ってからほぼ通い詰めだった。
「街を歩けば綺麗な娘でも、遊女でも居ように」
暗に自分に大枚を叩いて通うのが莫迦だと曹丕は云っているのだ。
現に三成とてこの調子で散財していけば、遠からず破産する。
「奥方が哀れだな」
曹丕の言葉に三成は首を振った。
「妻はいない、男やもめでな」
「ほう」
三成の言葉に曹丕は目を細め、「聴いても詮無いことを訊いた」と
三成の首に手を回した。
「私は遊女でお前は客であったな」
曹丕を見ていると三成は苦しくなる、昨日は誰を相手にしたのか、
どこぞの大名か商人か、誰がその身体に触れたのか、
それを思えば三成の中でどす黒いものが渦巻く。
そのまま曹丕を組み敷けば、曹丕は喉を鳴らし哂った。
「安心しろ、三成」
三成を絡め取るように曹丕は哂う。
「お前は私が相手をした客の中では気に入りに入るぞ」
あとは呑まれるまま、曹丕に溺れる。
曹丕は愉しげに三成を煽る。
それは何かの確認のようでもあり、
いつまでも曹丕の手の内で踊らされている気もした。

( かまわぬ )
ひとり、想う。
( 出逢って仕舞った )
ならばこの身の破滅でもかまわない。
曹丕はゆっくり三成の背をなぞる。
その仕草に今すぐにでも曹丕を攫いたくなる。
曹丕の持つ何もかもを奪い尽したくなる。
三成はそっと曹丕の頬を撫ぜ、抱き締めた。

「惚れたのだから仕方あるまい」
三成のその言葉に曹丕は、はっとしたように顔を上げ、
そしてゆっくり目を閉じた。

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