16:名探偵の恋

三成は名探偵と呼ばれている。
学園での怪奇事件を解決し、そして、
資産家令嬢殺人事件、世間を騒がした、13番街の通り魔事件
など、数々の事件を解決したことでも知られている。
最初はどれも些細な相談から始まったのだが、
警察署長の息子である三成に次第に難事件の
相談が寄せられるようになった。

「ふむ、難しいな・・・」
被害者は40代の男で某重工の社長である。
その被害者が密室で発見された。
酷い死に様で、バラバラになった身体の部位が
部屋に飾るように置かれていたというのだ。
当然誰かが入った形跡も無い。
直前に電話で話していたという秘書の
証言を信じると殺害時刻に矛盾が出る。
秘書と話していた時間には男は死亡して
いたことになるからだ。
動機のあるものを捜せばこれは多いだろう、
一族の財産争いか、はてまた私怨か、
被害者の凄惨な殺され方には怨恨の線の
匂いがする。
三成は資料を検討して、ひと通り関係者に
話を聴いた。

「今日はこれまでにしよう、続きは明日」
三成は立ち上がり、捜査をしていたビルを後にした。
一応父の方にも情報の確認を取り、
家人の左近に連絡を取る。
「ああ、今から帰る、そうだ、夕飯はそちらで食べる、
用意しておいてくれ」
一通り要件を伝えて電話を切った。
これがこのところ、専ら三成の習慣になりつつある。
養父や養母の住む本家の近くに三成はアパートを借りている。
三成の世話をする為に左近がついてきているが、
三成はアパートの階段を登り、自分の部屋より
更にひとつ上の階へと昇った。
慣れた様子で家の鍵を取り出し、ドアを開ける。

「ただいま」
と云えば、左近の聲が返ってきた。
勿論これは三成の部屋では無い。
三成の部屋の真上の部屋だ。
しかし、勝手知ったる、という様子で
三成は靴を脱いで上がった。
「帰ったか」
「ああ」
軽く手を上げれば、男が振り返る。
「左近が夕飯を用意しているので直に食べれよう」
男の名前は曹子桓、大学で院生をしている。
そして推理小説家でもあった。

「珈琲を淹れてくれ」
曹丕が筆を置いて、三成に云う。
「どうせ話は長くなるのだろう?」
薄く笑う曹丕に三成は「心得た」と頷いて
珈琲を用意した。
そう、このところの日課というのは決まって
この男の家で左近が用意した夕飯をとることだ。
これは世間には公表していないが、
曹丕という男、酷く頭の切れる男だった。
三成は話をまとめ、人に分かりやすく伝える進行役とするのなら、
真の名探偵は曹丕である。
曹丕はにやりと口端を歪め『安楽椅子探偵』の如く
三成を促した。

「で、今度の話をきかせてもらおうか?」

ワトソン君、と笑う曹丕に、
三成は今日舞込んだ事件の話を紐解いた。

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