17:キューピッドの恋

相談をされればなんとなく答えてしまう。
三成は人を良く見る男だ。
きっかけは大学で友人に恋愛相談を
されてからだった。
然して興味も無いことだったが、
気になる彼女と上手く行くだろうかという
問いに、三成が的確に答えたのが最初だ。
そこから二人目、三人目とするうちに
三成に恋愛相談をすれば必ず成功するという
ジンクスが広まり、今に至る。
そもそも相性というのは性格だ。
顔だけで相手の全てを許せるという
者もいれば、中身が大事というものもいる。
身体の相性ばかりは三成には測れないが、
相談されたらきっちり相手をリサーチするのが
三成の信条だった。

「相手はこの間別れたばかりだ、
別れた彼女が比較的キャリアだったから
案外正反対のお前なら上手くいくかもな」
と適当に見繕えば、相談をしに来ていた
女子が「やった」と立ち上がり、
告ってくる、と教室を出た。
三成はそれを見送り溜息を吐く。
( やれやれ・・・ )
これでは結婚相談所か何かだ。
案外自分はそういった斡旋業が向いているのかも
しれない。経済を取って仕舞ったが、
将来の道の転向すら考える近頃だった。
しかし三成の見立てはほぼ100%の確率で
成功したし、別れるケースも稀である。
今や学内きってのキューピッドとして
色んな意味で重宝されていた。
他人に興味は無いが案外お節介の三成だ。
頼まれれば断れず、さほど聞きたくも無い
相談に乗る羽目になる。

しかし三成にも不可能なことがあった。
少なくとも、学内とまでいかなくても
同じ学科で唯一成功しない相手が居る。
( あいつは・・・ )
曹子桓だ。
抜群の頭脳と容姿を持って学内の人気を独占
する癖、人を寄せ付けない。
家柄が大企業の御曹司というのもあって、
皆遠捲きだ。
御曹司らしく有名大学にでも行けばいいのに、
こんな地方の大学に居る。
それが不思議でならないが、
曹丕に告白して玉砕した女子達から
多く相談を寄せられているのも確かだ。
しかし三成は曹丕に合った女子に出逢わない。
相談されても「振られるな」としか返せない。
此処まで来ると気になって仕方ないが、
不本意ながら恋の伝道師とまで揶揄される
三成にとって曹丕だけがイレギュラーだった。

はらりと紙が舞い落ちた。
曹丕のものだ。
講義が記されたプリントを拾い
三成は曹丕に手渡した。
「落ちたぞ」
曹丕は、「噫」と頷き、
三成から受け取る。
薄い青の瞳と目があったその瞬間に
胸を鷲掴みにされるような感覚に呑まれる。
不意に悟って仕舞った。

( 噫、なんだ・・・ )
どうして自分が曹丕の相手だけ見つけられないのか、
( そういうことか・・・ )
どうして曹丕との恋愛相談を持ちかけられると
全て無理だと答えて仕舞うのか、

「すまない、」
教室を出ようとする曹丕の背に三成は聲をかけた。
「良かったら、今度飲みにでもいかないか」
その言葉に、曹丕は一瞬驚き、
驚くほど優しい顔をして頷いた。
それだけでどうしようも無い心地に駆られて仕舞う。
( お前の傍に居るのが俺であればいいのにと、 )
三成はすんなりと胸に入ってきた気持ちに笑って仕舞う。
( 全く、厄介な・・・ )
しかしこの湧きあがる歓喜に、

なんのことは無い結局恋をしていたのは自分なのだ。

http://zain.moo.jp/3h/