02:姉/妹(義姉/義妹)

里帰りと称して実家に正月から居座っているのは姉の甄姫であった。
姉と云っても、母が違う上に歳も近いわけでは無い、三成にとっては
少し遠い存在の姉であったが、美人で快活なひとであるな、と常々思っていた。
その姉が久しぶりに実家に帰ってきたきり、まるで帰る様子が無いので
正月も十日ほど過ぎた頃に三成がお茶を注ぎながら姉に訊いてみた。
「旦那はいいのか・・・?」
甄姫の夫は曹丕という。曹グループの御曹司であった。
結婚式はそれは大層なものだった。おかげで三成は未だに姉の親戚の
顔と名前が一致しない。
「出張ですのよ」
ふう、と姉がさも退屈そうに溜息を吐くので、成る程、と三成は納得した。
姉の夫は忙しい。三成ですら年に数度しか会ったことがなかった。
しかし綺麗なひとだな、と時折TVなどで見た時に思う。
怜悧な視線に少し低い聲が印象的な美男であった。
それが三成の義兄であるというのだから不思議である。
どういった経緯で二人が出会い結婚に至ったのかすら三成は
知らなかったし、さほど興味もなかった。
他人に興味が無いのは生来のことであったし、三成自身も疑問に
思ったことすらない。しかし義兄は別だった。
三成の高い自尊心の故に、自ら訊くということはなかったが、
義兄のことだけは何故か三成の心の端に引っ掛かるような存在だった。

「早ければ今日、こちらに着きますわよ」
姉の何気ない一言に三成の心臓が跳ねた。
え?何だ?聴いてないぞ?
「ですから、我が君がこちらにお正月の挨拶も兼ねて来ますわよ」
姉は何でもない顔で三成の淹れた茶を湯呑で啜っていたが
三成はそれどころでは無い。

何だ?曹丕が来る?
正月の挨拶に、うちに?
「そういうことは早く云って下さい」
慌てて三成は立ち上がり、母の姿を捜した。
正月ボケした我が家はそれに相応しく適度に汚い。
年末のあの大掃除は何だったというのか、
三成は姉と母を急かし、部屋の掃除を始めた。
そして夜に帰省した曹丕を真っ先に出迎え、三成は云うのだろう、
なんでもない顔で新年の挨拶を、
胸の内に過る想いなど置いたまま。

「明けましておめでとう御座います、義兄さん」

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