04:父/母(義父/義母)

曹丕は三成の義父である。
三成はぼんやり目の前の男を見た。
第一印象は莫迦みたいに美しい男、であった。
三成は今年十五になる。曹丕の養子になるために
沢山の試験を受けた。
養父である曹丕は中華系の財閥曹魏グループの御曹司だ。
その御曹司がどういった内情か、または気まぐれなのか、
孤児を集めたセンターに養子の希望を出した。
その為に優秀な子供が沢山集められ、三成もその数々の試験に
残り、最終的な面接で養子に決まったのだ。
初対面でいきなり「莫迦みたいに顔の綺麗な餓鬼だな」
と云われたので三成も「莫迦みたいに顔の綺麗な男だな」
と返した。そう返して仕舞うのは三成の性格であったが
実際そう思ったのも事実だ。曹丕は三成を鼻で哂い、
三成も仕舞った、と少し後悔したが、今更取り繕える筈も無いと、
態度を改めなかったのでもうこの話は駄目か、と思っていたところで
まさかの養子縁組であった。

「お前の学校が決まった、来期から其処に通え」
三成は頷き、手に入れた広い部屋に座る。
養父から学校のパンフレットを受け取った。
「何故、俺を?」
ずっと思っていた疑問を三成が口にした。
此処に来てから一週間、ふわふわと夢心地だ。
十五にもなってしまえば養子など殆ど望めないし、
ましてこんな金持ちの家になど考えられない。
よしんば、頭脳で選んだのだとしても、三成にはまだ信じられなかった。
「他意は無い、お前が一番成績が良かった」
曹丕はさらりと云ってのけた。
厭味な云い方だ、と三成は思う。
冷たくて、他者を寄せ付けない、故に美しい、
そして厭な男だ。
「父や親族が色々煩くてな、体裁の為だとでも云えば満足か?」
「厭な物言いだな」
三成はつい云って仕舞う。
曹丕は哂った。
「俺はお前の養子として常にそれらしく振舞えと云うことか」
そう云えば、曹丕は物分かりが良くていい、と満足気に鼻を鳴らした。

三成は少なりとも期待をしていた。
例えば其処に何らかの愛情の欠片でもあれば、と
思って仕舞うのはまだ子供だからだ。
しかし相手は、それをあっさり斬り捨てる。
( 悔しい )
唇を噛む、この養父が憎らしい、
自分など所詮持ち物の一つに過ぎないと暗に云い放つ
厭味な男!

「そういうことだ」
ゆっくりとした動作で、優雅に曹丕は肘をついた。
「気に入らんな」
三成は曹丕の前に立つ。
「気に入らなくても構わぬ、それがお前の役目だ」
「何と呼べばいい?お父様とでも呼べば満足か?」
三成はいよいよ我慢ならなくなって厭味を口に乗せた。
曹丕はそれを心地良さそうに受け止めて、好きに、と呟いた。
「好きに呼べばいい」
その姿が艶やかで、三成は息を呑んだ。
美しい、この世で生を受けてただの一度も美しいなどと
思ったことが無いが目の前の養父は確かに美しい。
挑発するように、十五の餓鬼を見つめる様は三成を何とも云い難い気持ちにさせた。
三成はもう一度息を呑み、口を開いた。

「では、曹丕」
曹丕、と三成は呼んだ。
曹丕は満足そうに目を細め、己の手を取る三成の好きにさせる。
「いつかお前に俺を認めさせてやる」
それがどういった感情なのか三成にはわからない。
曹丕はわかっているのか、わかっていないのか、或いは何かを期待し、
待っているのか、どちらとも取れない挑発の視線を三成に絡めた。

「その歯に物を着せぬ云い方がいい」
三成、と曹丕が囁く言葉がこの上なく甘く聴こえるのは気の所為だろうか、
曹丕の手を取り、三成はいつかお前を俺が奪ってやるのだと、決意した。

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