05:叔父/叔母、伯父/伯母

「目的語を云ってくれ」
三成は頭を抱えた。
否、何となく云いたいことはわかるのだ。
だがしかし、認めるわけには不可ない。
「だからいっそ私と付き合って欲しい」
何が、いっそ、だ、何の話だ。
三成はややあって、盛大な溜息を吐いた。

曹丕は三成の母方の叔父にあたる。
曹家という華道の家元の本家の嫡男だ。
三成も大概箱入りではあったが、叔父のそれは
三成を遙かに上回る。そんな箱入りの叔父は時折
やってきては、居候することが多かった。
三成も三成でわりと気の合うひとであったので
好きにさせていたし、三成の大学で専攻している建築デザインに
多いに興味があるようで、毎度何かと話をする機会が多かった。

「何故、俺が曹丕と付き合わなければならん」
「策だ、三成よ」
策、と云うので、三成は顔を顰めた。
「最近嫁を取れ、嫁を取れと再三云われてな」
親族一同挙って嫁候補を連れてくる、と曹丕がうんざりした顔をした。
「確かに嫁を取る予定はないのか?」
そうだ、曹家の嫡男ともなればそろそろ結婚してもいいはずだ。
どの道跡取りが必要なのだから結婚は早い方がいいに決まっている。
「否、結婚しないと云っているのではない、しかしな」
曹丕はカップに四分の一ほど残ったコーヒーを揺らした。
「数が多すぎる、これでは辟易する」
で、何故俺だ?
と三成が口を開く前に曹丕は更に渋面して何かを思い出しているようだった。
「それにな、別件の問題もある」
「別件?」
少しの沈黙の後曹丕が口を開いた。

「多いのだ」
「何が?」
曹丕にしては珍しく云い澱むので三成が訝しげに先を促した。
「男に言い寄られるのが」
「・・・成る程、云いたいことはわかった」

三成も、曹丕も男に言い寄られることが少なくない。
何故か?と云いたいが、それも持って生まれた顔と頭脳の所為であると
互いに自負している。
要するに曹丕は、あまりにもそういった事が多いのでいっそ甥っ子である
三成と一時的にでもデキてます、と発言して暫くその話題から逃げたいのだ。
「しかし俺は断る、おねね様に殺される」
そんな面倒なこと、後でどうなるか、想像するだけでも恐ろしい。
「女で問題なかろう、甄姫などどうだ?良い女ではないか、それに女で
は説得力に欠けるというなら他の男にしろ、俺ではない男に、」
司馬懿とか、と付け足すと曹丕はいよいよ顔を顰めて首を横に振った。
「それは本気でシャレにならん・・・」
「・・・そういうことか・・・」
司馬懿では曹丕の分が悪いらしい。

「色々複雑なので、ならばいっそお前を巻き込もうと・・・」
「巻き込むな」
曹家のお家騒動などごめんだ。俺も我が身が可愛い。
赦せ、叔父上、とNOサインの姿勢を貫いた。
曹丕も流石に無茶か、と肩を竦めて立ち上がった。
ドアに手を掛けがっかりそうに呟く。
「良い案だと思ったのだがな」
それを冷やかない視線で三成は見送り最後に呟いた。

「本気であれば考えたのだがな」
にやりと哂いを含ませ響く聲に曹丕は驚き振り返る。
三成はしてやったと云わんばかりに聲をあげて笑った。


「本気ならばそれこそ愛の逃避行などどうだ?叔父上」


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