08:友達

三成の携帯が鳴ったので、慌てて通話ボタンを押した。
「三成か」
「ああ、久しぶりだな、曹丕」
帰国したか、と問えば曹丕の落ち着いた静かな聲で
そうだ、と返された。
「先ほど着いた、お前の時間が良い時に土産を取りに来い」
土産を渡すのでは無く、取りに来いというのが如何にも曹丕らしくて
三成は自然と頬が緩んだ。
「わかった、お前さえよければ今からでも構わん」
曹丕は少し思案するようにしてから、電話向こうで誰かと話をしているらしい。
何事か奇声が聴こえた気がするが、気にしないことにした。
「では、今から仲達を迎えに寄越すから、うちまで来てくれ」
「わかった」
待ち合わせ場所を確認してから、あの奇声は司馬懿であったかと苦笑する。

曹丕と三成の出逢いは全く以てただの偶然であった。
出逢いについてはいずれ話す機会もあるだろうから、今回は端折らせて頂く。
ひょんな出逢いから、互いに共通の趣味もあって、三成と曹丕は学校も違うのに
良く遊ぶ相手であった。
三成は待ち合わせ場所へ向かいながら家人へ電話を掛けた。
「左近か、今日は曹丕の家に寄ってから帰る・・・夕飯はわからぬな、
あいつも帰国したばかりだ・・・ああ、わかった、ではそうする」
簡単に済ませて三成は電話を切った。
左近は三成の世話役の男だ。三成の家の家業とでも云うべきかお家柄的に
左近の存在は欠かせなかった。
どういった家業か、と問われれば茶を濁した物言いで、「不動産関係をちょっと・・・」
としか云えないのは全く因果なものだが、こればかりは家業なので仕方無い。
溜息を吐いて前を見ると待ち合わせ場所に黒塗りの高級車が停まっていた。
手をあげると、向こうも気付いたようで、不承不承、といった感じで三成を車に乗せた。

不愉快さを全面に押し出しているのは曹丕の教育係りの司馬懿だ。
当初から三成とはそりが合わないが曹丕の命には逆らえない。
三成も家業の件もあって、それなりに格式のある家の出だが曹丕はそれの比では無い。
世界に名立たる曹魏グループの御曹司だ。由緒正しき生粋の皇子と云っても何ら
遜色無い男であった。本来なら全く縁の無い二人であったがその偶然の出逢いのまま
周りの思惑を余所に円滑に交友関係は続いている。

「着いたぞ、恐れ多くも有難い子桓様のお土産物を頂戴したら疾く消え去るがいい」
尊大に司馬懿に云われて三成は苦笑しながらその背を見送った。捨て台詞は「馬鹿め!」だ。
「三成」
曹丕に聲をかけられ久しぶりに友人の顔を見る。
「久しいな」
ああ、と曹丕は頷き、三成を自室へと導いた。
三成もわりと頻繁に通っているので慣れたものだ。
部屋に入った瞬間、曹丕がにやりと笑い、三成に差し出した。
「今度はこれか」
「面白そうだろう?」
曹丕が差し出したのはアナログのボードゲームだ。
三成と曹丕はアナログゲームという共通の趣味で固く繋がっている。
オンラインなどとは無縁だが、ゲームは目の前で他人と遣り合うのが一番面白かった。
曹丕の凝り性もあって、年々ボードゲームのコレクションは充実しつつある。
互いに軍略、知略がものを云う思考戦が得意であった。
その上、曹丕相手だとなかなかどうして、のめり込む。今のところ勝率はイーヴンだった。
早速いそいそと曹丕が開封して、説明書を読み始めたので、ああ、これは徹夜だな、と
三成は確信して、そっと左近へと断りのメールを入れることとなる。
今日は土曜日で明日から祭日を入れて月曜日まで休みだ。
これを狙っていたとしか思えない。
ちらりと曹丕を見れば、さもありなん、と不敵に笑ってみせたので、
三成は溜息を吐き、曹丕に続いて説明書を読み始めた。

三成と曹丕は互いに訪れた至高の知略を今暫く楽しむこととした。

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