09:友達以上恋人未満
(08:友達の続き)

「そう云えば何故お前はあの学校なんだ?」
学校帰りに待ち合わせた喫茶店でなんとなく思ったことを訊いてみた。
「ああ、それはな」
目の前の男はちょっとやそっとじゃお目にかかれなセレブだ。
出会うまで何せ、カードで払えないお店を見たことが無かった上
こうして喫茶店で待ち合わせという行為ですら浮いて見える皇子様である。
「たまたまテレビを点けたらドラマで、主人公が電車で学校に通学していた」
「ほう」
「それがやってみたくなったのでな」
普通なら高級車で純粋培養のお坊ちゃまお嬢様が通う学校に行く筈の曹丕が、
一般的な私立高(それでも充分御坊ちゃま学校だが)に通っていた訳がわかった。
「で?どうだったんだ?電車通学は?」
「非常に興味深いな」
しかし、面白い、と曹丕が云うので面白いのだろう。
ただ、送迎の為に付いて回る護衛を思うと少し同情した。
「三成はどうなんだ?」
「俺か?決まっている、一番偏差値が高かったからだ」
三成の学校も有名進学校だ。
曹丕とはちょっと学校の種類が違うので何とも云えないが、
それぞれ有名私立高の制服を着た男二人が喫茶店の端でボードゲームに興じている
今の方が余程浮いているのだろう。

曹丕は手を器用に傾けて、綺麗に手持ちのカードを切った。
その動作は澱み無く、美しい。
曹丕のそういった手の動きやちょっとした動作が三成は気に入っていた。
三成は渡されたカードを受け取り手札を整理する。
順序良くてきぱきと整理する三成を見て、曹丕が呟いた。
「お前の手の動きはいい」
「何がだ?」
三成は手札の整理に集中していて、曹丕の顔を見なかった。
「澱み無く、分けるだろう?行動に無駄が無くて美しい」
思わず三成は顔を上げた。
「その動作が好きだ」
三成は唖然として曹丕を見つめる。
そのまま何事も無かったように美しい動作で優雅に己の手札を分け始めた
曹丕を見て、三成も思う。

( 嗚呼・・・俺もお前のその所作が好きだ・・・ )
何事も無かったように互いの間に沈黙が横たわる。
カードだけがまるで何かの図形を描いているかのように
美しく並べられた。
( お前のその手も、その思考も、 )
その手に触れたら、ちりちりとこの胸を焦がすような感覚が何なのか
わかるのだろうか、その美しさに感動すら覚えるこの感覚の答えが、
( きっと・・・ )
しかし触れる前に現実へ戻った。
曹丕と三成は互いの知略に没頭していく。
少し惜しい気もしたが、逆に今はこれでいい、と思えた。

( 今はこれで、いい、 )
( これがいい )
この高揚感と駆け引きに酔いしれたい
( 結果は同じなのだから )
三成は確信する。
近い将来いずれ三成は曹丕に触れるのだろうと、
その感覚の答えを手に入れるのだろうと確信する。
しかしそれは今では無い、今で無くてもいい。
何せこの皇子様の周りはややこしいものばかりだ。
それなりの配慮も必要である。
今は目の前にある知略でどう相手を屈服させようかと、
三成は意識を集中して目を閉じた。

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