10:夫/嫁(夫婦でも可)
※OROCHIの設定です。

曹丕と寝るようになってから夜を長く感じるようになった。
神経質な性質であるらしい魏の皇子殿は、
人と眠るのを常に拒む、それを三成がその肌恋しさ故に
半ば強制的に意識を沈める形で宥めるのが常だった。
漸く眠ったらしい曹丕の背を三成はぼんやりと眺める。
薄暗がりの中でさえ、はっきり浮かびあがるほど
薄く白い背だ。
曹丕を初めて抱いた時、その身体の細さに驚いたものだ。
三成とて曹丕のことをとやかく云える方では無かったが
(何せ周りは体力には自信のあるものが俄然多い)
曹丕のそれは三成のものとは明らかに質が違う。
普段あれほど着込んでいるのも自分の細さを気にしての
ことなのだろう。少しでも恰幅を良く見せようとするのは
男の見栄だ。決して曹丕が軟弱なわけでは無いが、必要以上に
肉が付かない性質であるらしかった。
そっと背骨に指を這わせば曹丕はひくり、と動いたが
起きる様子は無かった。
それに安堵して三成は浮き出たあばらにまで指を伸ばす。
骨をなぞれば云い様の無い感情に呑まれた。

白い肌が薄く呼吸するのがわかる。
常から冷たい体温だったが眠っているからか僅かに温かった。
綺麗なものだ、と思う。
その白さも繊細さも、曹子桓という人間を雄弁に物語っていた。
( 一皮剥けば中身は鮮烈にして苛烈・・・ )
冷静で明晰な頭脳、その癖内実は激情、
その表裏の激しさを三成は眩しく思う。
いっそ理想と云ってもいい。
曹丕と語り合うのは飽き無かった。
歴史に聴いた文帝を見ると聴くとでは大違いで、
三成の興味が曹丕へと向いたのは自然の流れだった。
それが欲に代わり、曹丕を抱いたのも三成だ。
曹丕は不敵に哂い、三成を誘うような仕草さえ見せるのに
三成を核心へは触れさせない。
その核心に手を伸ばそうと毎夜この部屋を訪れるようになったのは
三成の欲望か、曹丕の策なのか。
考えても仕方無いことをつらつらと夜の闇の中で考える。

「考えても詮無いことだ」
「起きていたか」
三成の思考を打ち切るように唐突に曹丕が口を開いた。
低く、静かに語る聲に三成の烈情が煽られる。
曹丕は三成の方へ振り返り、冷たい双眸に微かな熱を孕ませ、見つめる。
「この結果に答えなど望むべくも無い」
三成の考えを読んでいるかのように、曹丕は自然と口を滑らした。
三成は曹丕の言葉の意図するところを追った。
そして悟る。
曹丕も同じなのだ。結局三成も曹丕も互いに同じ感情を抱いている。
それが愛だの恋だのと云える筈も無い。
もっと深く、もっと醜い、
相手の全てを食らい尽してしまいたい衝動、
相手の全てを求めてもまだ足りぬと渇望する我が身の浅ましさが
曹丕と三成を繋ぐ。
それをどう言葉で表せというのか、
( 否、どんな言葉でも表せまいに )
曹丕は探るように三成を見つめ、手を伸ばした。
その伸ばされた手のままに遊ばせれば曹丕の唇が寄せられる。
反射的にその唇を激しく貪り再び火のついた身体を絡ませた。

情動の内に不意に曹丕が呟いた。
「或いはお前が女であったなら私が妻にしただろうに」
三成は哂い、曹丕を揺さぶった。
「莫迦を云うな、国が滅ぶ」
こんな厄介な感情に呑まれた者が繋がれば結果は見えている。
「逆にお前が女であったなら俺がお前を妻にした」
曹丕は弾かれたように哂い、「矢張り私はお前が欲しい」と
聲を洩らした。そのような戯れを云う曹丕が三成は愛しくてたまらない。

( 本当はそんなこと思っていない癖に )
欲しいなどと、そんな言葉で足りるなら、俺はいくらでもお前にこの身を
捧げるだろう。そんな言葉で足りるのなら、いくらでも。
だが、いずれこの欲はお前と我が身ですら喰い尽すのだろう、と確信する。
その行く末を想像し三成は行為の熱に呑まれながら哂った。

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