12:幼馴染

「子桓」
呼ばれて身体を揺らせば三成だ。
「呆れた、まだ終わってないのか」
噫、とか云、とか気怠げに曹丕が頷けば、三成はてきぱきと慣れた様子で
曹丕の用意を始めた。
曹丕が寝汚いのは常のことで、家人は寝起きが非常に悪い曹丕に毎朝手を焼いている。
なまじ口が達者であるだけに、あれこれ理由をつけて起きようとしないのだ。
これには、父曹操から、夏侯惇、司馬懿、他同じ屋根の下に居る家人皆が手を焼いた。
故に幼馴染である三成がこうして毎朝曹丕を叩き起こし学校へ登校させるのが
務めであった。

「起きろ、」
「噫・・・」
もぞ、と動くものの、どうしても身体が起きない。
もう何もかも面倒になる。
しかし頭上の三成は曹丕の布団を容赦無く剥いだ。
「寒い・・・」
「ならば起きろ、ストーブの前に制服を置いてある」
ほら、と手を差し出されて、漸く曹丕が折れた。
三成に云われるままに、ストーブの前でのろのろと制服に着替える。
それからおざなりに朝食を取って、
(この朝食は三成も一緒だ。毎朝起こしに来る分早くに出るので、曹家で
朝食を取るのが習慣であった。)
食後の珈琲を飲んでからやっと眠っていた頭がゆっくり動き出す。

「今日の弁当だ」
ほれ、持って行けと差し出したのは夏侯惇だ。
今日の当番は夏侯惇らしい、曹丕の弁当を三成が受け取り、
それを曹丕の鞄に丁寧に入れた。
曹丕は三成に急かされるままに靴を履いて家を出る。

通学路は少し路面が凍っていて滑りやすい。
こけかけたところで三成に手を掴まれた。
「全くお前は、起きている時は明晰なくせに寝起きは駄目だな」
文句を云いながらも三成は手を差し出す。
曹丕はその手を取って歩きだした。

ゆっくり、ゆっくり、
きらきらと朝露が光に反射する様子が美しい。
吐いた息は白く、前を歩く三成の髪が綺麗だった。

この瞬間が曹丕は好きだ。
幼い頃から、何かと自分に世話を焼く幼馴染が
気難しいと称される曹丕にとって唯一の友だった。
これからこの世話焼きな幼馴染が教室へ着いたら曹丕の長い髪を
結うのだろう、その様子を思い描いて、
曹丕はゆっくり朝の空気を吸い込んだ。

「今日は寒いな、三成」

朝日は美しく幼馴染の髪に反射する。
それを眩しそうに曹丕は見つめ目を細めた。

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