13:守る人
※OROCHIの設定です。

戦場に於いて一瞬の油断が命取りだ。
三成は咄嗟に飛んで来た無数の火矢を払った。
「曹丕!」
火矢が砦を燃やしていく。大量の煙が辺りを覆った。
煙で曹丕の姿を確認できない。
慌てて曹丕が居たと思しき場所へ身を翻すと
数人の護衛兵卒に囲まれて曹丕は煙に咽ていた。
迷うことなく三成は曹丕の手を取り、兵に指示を出す。
「退け!本陣まで後退する!」
残った僅かな兵達でかろうじて陣形を取り、未だ咽る曹丕を引き摺るように
三成は砦を脱した。

「何を・・・進軍しろと云うに」
けほ、と喉を鳴らした曹丕が三成を睨む。
「莫迦を云うな、このまま進めば、被害は甚大だ」
「しかし敵本陣は落とせた」
確かに曹丕の云う通りだ、被害を無視して進めば敵本陣も落とせよう、
しかし、それではこちらの本陣も危うい。
「お前が死んでは意味があるまい」
連合軍の主は曹丕だ。
曹丕だからこそ三成は連合に付いた。
曹丕が死んでは本末転倒というものだ。
三成がそう云えば曹丕は、ふん、と鼻を鳴らし、不服そうに
三成の後へと続いた。
曹丕は時折こういった無茶をする。
まるで自分が死ぬかどうかを試しているかのように三成には見える。
「無茶は寄せ」
三成が水筒を投げると曹丕はそれを受け取った。
そのまま三成は本陣へ向かいながら兵卒を迅速に纏めていく。
その様子を無表情に曹丕は見つめ、手にある水筒を握った。

「立て直せそうだ」
三成の指示通り動いた兵達の陣形は既に乱れていない。
優秀な男だ、と曹丕は思う。
三成のような物怖じしない男は曹丕にとって初めてであった。
今まで誰もが、曹魏の跡継である曹丕には一歩退いた態度を取っていた。
父である曹操、あの腹に一物抱えた司馬懿ですらも曹丕には何かしら
線を引いた。しかし三成は違う、この奇妙に融合された世界で、
曹丕の国も地位も関係なく、三成だけが迷い無く曹丕の腕を、手を掴む、
無礼な、と曹丕は小さくつぶやいた。じわりと指先から痺れていく感覚がする。
滞りなく後退を確認した三成が再び曹丕の傍へやってきた。
「何だ?飲んでいないのか?」
喉に痛みが出るかもしれぬから、飲め、と水筒の栓を三成は開ける。
しかし曹丕は動かなかった。
三成は溜息を一つ吐き、水を口に含む。
意図を理解するより早く三成は曹丕を引き寄せ、口付けに水を含まされた。

「早く行くぞ、数日は決着は着くまい」
再び腕を引っ張られ曹丕は三成に続く。
「何があろうと俺がお前を勝たしてやる」
「何を・・・」
曹丕が言葉を紡ぐ前に三成が振り返った。
「お前は俺が守る」

嗚呼、
曹丕は眩暈を覚える。
煙と血の臭いが咽ぶこの戦場で、
当たり前のように曹丕の手を取り、引き上げるその腕に、
その聲、その仕草に、
眩暈がする、

( 簡単に云ってくれるな )
( 守るなどと )
告白のように甘さを含んだ聲でこれ以上囁かないで欲しい。
曹丕は三成の手を払い、衣服の汚れを払った。
「戯言を」
これ以上その言葉を聴けば今度こそ曹丕はその手を払えないだろう。
確信したように笑う目の前の男を軽く睨みつけて、
曹丕は苦し気に息を吐いた。
恐らくこの先きっと絡め取られるだろうその甘さに憂いを乗せて、目を閉じた。

http://zain.moo.jp/3h/