15:嫌いな人、相性の悪い人

相性の悪い男だ、と思った。
第一印象もさることながら、性格も総て、
全く以って合わない男の名は曹丕と云う。
仕事上、どうしても顔を合わせなければならないので
特に表だってどう、ということは無いが、
あまり鉢会わせないように心がけていた。

しかし望むにしろ望まないにしろ、
周りは曹丕との仕事をさせたがる、
互いに分野が同じれど専門が違うということもあって、
相乗効果を期待していると有難くも
プロジェクトチームまで編成して頂いた。
そうなってくるといよいよ毎日曹丕と顔を合わせることになる。
三成はそれを想い唇を僅かに噛んだ。
しかしこちらも大人だ、そんなことを億尾も出さずに
互いの仕事を淡々とこなす。
そんな沈黙を抱えながら二ヶ月が過ぎたころ曹丕が不意に口を開いた。
就業時間はとっくに過ぎていて、互いに残業で、
曹丕と二人の部屋の中で、

「お前は俺が嫌いか」
そんな問いに、核心を突かれた気がして三成は狼狽えた。
「何故、そう思う」
問いに問いで返せば、曹丕は少し考える様子を見せ、
ゆっくりとカップの珈琲を掻き混ぜた。
「同族相哀れむという奴だ」
少しの沈黙の後に曹丕が返した答えに三成は躊躇した。
核心を突かれて動揺する頭でどうにか、そうか、と返すのが
精一杯だった。そうこうしている内に曹丕は帰り仕度を整え、
また明日、と部屋を出て行った。
曹丕が出て行った部屋で独りになって息を吐く。

( 同族相哀れむ )
「・・・」
そして理解する。
( そうか )
三成が曹丕を苦手とするように曹丕も三成が苦手なのだ。
ともすればそれは互いが恐ろしく近い人間なのだと悟る。
曹丕は三成より先にそれに気付いていたのかと思うと
胸の内に嵐のような激情がよぎる。

( 酷い同族嫌悪だ )
( なんという・・・ )
互いに嫌悪しつつ、反して互いだけが愛しいのだと三成は悟る。
思わず拳を握りしめた。

「これでは絶望的では無いか」
互いに相哀れみ、嫌悪し、それすらも愛しいなどと、
気付いてしまえば、あとは堕ちるのみでしかない。
「黙っていればいいものを・・・」
曹丕を怒鳴りつけてやりたい、自分にその感情の答えを導き出させたことが
恨めしい。しかしその根底に昏い愉悦がある。
事態を動かしたのは曹丕だ。
互いに黙っていれば終わったものを、言葉一つで動かしたのは曹丕だ。
三成は絶望的な気分に打ちのめされながら、それでも湧きあがる歓喜を見た。

「俺を本気にさせたことを後悔させてやる」
嫌悪し、哀れみ、そしてこの世に一人しかいない半身のような
曹丕に気付いて仕舞った。
一度手にしてしまえばもう手放せまい。
それが嫌悪にしろ、愛にしろ、
「どちらでも同じことだ」
三成は曹丕を必ず手に入れるだろう、
其処にある、感情がどういったものなのか、もはやわからぬほどの激情の
渦中に、曹丕を想う。

或いは、お前なら知っているのか、
絶望的なこれこそが愛なのだと。

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