16:片想いの人
※OROCHI設定です。

想っていたのはどちらだったのか、
それはしんしんと降り積もる雪のように静かに積もっていった
想いだった。

初めて曹丕を見たのは、遠呂智に頭を垂れる姿だった。
同盟軍として、遠呂智に組する様だった。
妲己に史に聴いた、魏の皇子であると教えられ、
その無様を嘲笑うように囁かれる下卑た中傷に悠然と哂った男から
眼が離せなかった。
曹丕は頭を垂れる、優雅に美しく、その様に
叫びたくなったのは、何より自身であった。

次に遭ったのは出陣の直前だった。
妲己によって引き合わされた曹丕は遠目に見た時も
麗しかったが、間近で見れば尚のこと惹かれた。
そのまま監視にと、曹丕付きになったまま、
三成はそっと曹丕を想い続ける。
何が惹かれるのか、と問われれば
全てとしか云いようが無い。
立ち居振る舞い、その姿、仕草にさえ息が詰まるような
切なさが込み上げる。
時折、夜中に遠呂智に召される様子を察してからは
より深い激情が奔った。
此処に居るべきでは無いのだと、叫びたくなる。

「三成か」
何用だ?と、曹丕は夜着を直しながら三成に問うた。
まだ夜も明ける前だ。
曹丕の姿は何があったのか問うまでも無い。
三成はその様子を黙って見つめるしか無かった。
「用が無いならば後にしろ、眠くて仕方無い」
曹丕は三成の傍を抜けて部屋へ戻ろうとする。
すれ違いに、曹丕は、それとも、と告げた。
「それともお前も私を淫売の売国奴と罵るか」
嘲りの哂いさえ潜ませて己を苛む曹丕が三成は愛しい。
違う、とも、そう、とも否定できずに三成は振り返った。
曹丕は自室への扉をゆっくり閉めた。
すれ違い様に触れた指に絡む髪一筋、
そっと握りしめて三成は遣り切れない想いに呑まれる。

( 俺なら、いつまでもお前の傍に居ると )
( 夏も冬も幾度季節が巡っても )

曹丕が求めて手を伸ばしているものを皆与えてやりたい、
壊れて砕ける前に、三成は曹丕へと叫びたい。
喉が潰れこの悲痛な叫びが届かなくとも、
俺だけはお前のものなのだと、
叫びたい。

いつかその叫びを切なさに乗せて伝えた時に
曹丕は眼を閉じ、緩やかに呟いた。
「それこそ私が求めるお前の美しさなのだろう」と、
呟きは擦れて、伸ばした手は届かず、
互いに元在った場所へ戻る、
残されたのは切なさと遣り切れない想い、
そしていつかのお前の髪一筋。

それでもお前を愛していると伝えたら、お前はまた笑うだろうか。

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