19:ペット

曹丕がそのペットに夢中になったのはごく最近のことだ。
何やらゲームを本体ごと貰ったらしい。
『ペットだいすき!』という何ともコメントし難いタイトルの
ゲームは如何にも子供向けの内容であったが、
曹丕はそういったことに頓着もしないし、少し世間ズレしている
処があるので(お坊ちゃまなので)夢中になる様は
それはそれで可愛かった。
「みつなり、違う、其処だ」
「どうした?」
名を呼ばれたので返事を返せば、曹丕はゲーム画面に夢中だ。
改めてもう一度曹丕に問えば漸く曹丕は顔を上げた。
目の前に立つ三成を見て事態を把握したらしい曹丕は
少し思巡してから口を開いた。
「否、誤解だ、三成よ」
「どういう意味だ?」
思わず問い返せば、曹丕は小さなゲーム画面を三成に見せた。

『みつなり:♂:生後一ヶ月』

という表示がある。絶句して見つめれば画面上でたしたし動いている猫が居た。
「・・・何故俺の名なんだ・・・」
思わず問い返すのは三成の所為では無いだろう。
「他に適当なのが無かったのでな」
曹丕は当然というようにソファに身を埋めたまま、
ゲーム上の『みつなり』と遊んでいた。
これは何かの当てつけだろうか、と一瞬考えるが、
どうも違うようだ。曹丕にしては珍しく機嫌良く過ごしている。
「これが可愛くてな」
画面上で餌を与えているらしい曹丕はみつなりの喉を撫でるという
コマンドを押した。
猫のみつなりはごろごろと画面越しに曹丕に甘えてみせる。
それを見て、三成は眩暈がした。
「付きあってられん」
そのまま家を出て、外を歩く。

「全く、度し難いな・・・」
外を歩きながら三成は想う。
二人で住み始めて早半年、曹丕の周りの反対を押し切って同棲に成功した、
関係は良好と云える。だが時折曹丕のこういった無茶な戯れに三成は翻弄されるのであった。
「・・・こうなれば・・・」
一矢報いたいのが三成だ。
三成はアーケードを歩き、戯れに辺りの店を見る。
端にある一軒で三成の足が止まった。
店先に並べられているのは本物の猫だ。
生後二ヶ月だという猫はなんとも可愛らしい。
黒い毛並の猫が、誰かを彷彿とさせて、三成はにやりと口端を歪めた。


お買い上げたのは猫だ。
ゲームでは無く、本物の。
二匹を買い求めた。茶色の毛並と黒の毛並だ。
どちらも愛らしく毛布に包まっている。
揚々とした足取りで三成は家路に着いた。
出迎えた曹丕に三成は意地の悪い笑みを浮かべこう云った。

「二匹いる、一匹黒い方の名は『そうひ』だ」

新たに増えた家族に曹丕は驚き、そして次の瞬間、破顔した。

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