01:遠雷

曹丕という男を想う。
三成は曹丕という男を常に想う。
焦がれでは無い、この身を蝕む熱ですら
もう無い。
( ではこれは? )
ではこれは何だと問われれば激情以外に
どう答えていいのかすら最早わからなかった。

「・・・く、ぁ、、」
か細い悲鳴のような聲があがる。
三成は曹丕の中を暴き、奪い、
それでも征服など出来ぬのだと悟りながら
曹丕を求める。
曹丕の白い腕が三成の首に回る。
息をも吐けぬ口付けを交わしながら
獣染みた交合に耽る。
穿つ歓びが全身に駆け巡る。
それでも満たされぬのだ。
「お前の全てが俺のものにならぬのなら
いっそ、」
「殺してしまいたいか?」
笑みさえ浮かべる男が憎い。
どちらが誘ったかなど最早問うても仕方無い。
けれども互いに溺れるように求めあってしまっては
もうどうにもならなかった。
そして互いに想う。出遭わなければ、
この男と出遭わなければ、こんなことにはならなかったと。
後悔してももう遅い。
この頃三成は思う。
曹丕が王子でなければ、或いは只の身分も何も無い者であれば
三成は容易く曹丕の全てを自分のものにして奪えたのであろうと、
そんな愚かな考えさえ過る。
しかし現実には曹丕という存在は三成にとって
遠い。遠い存在で、容易く触れられる筈も無く。
今この状況は曹丕のただの気紛れであって、
いつか終わるかもしれぬ。
それを想えば三成はどうしても目の前の男の身体に
縋りたくなる。
( いつから )
( いつからこんな女々しい想いを覚えたか )

これほどに苦しく、狂おしい愛憎に包まれたのか、
三成は曹丕の汗ばむ腰を抱え一際大きく揺さぶった。
「あ、っぁ、、、!!」
酷い揺さ振りが曹丕を追い詰める。
追い詰められ達する瞬間だけ曹丕は三成に縋る。
そうしていつまでも縋らせていたくて三成は
曹丕を身体の芯まで抉るのだ。
吐き出されるものを、注ぐ、
その身体に、在り得ぬけれど、
いっそ子でも孕めばいいと、その残滓の最後の一滴まで
注ぐのだ。

「お前が俺のものであればいいのに」
言葉は呪詛に似て、三成を苛む。
呪詛の中、男は哂い、それこそが望みというように哂い、
「ならば私を捕えてみせよ」
と囁いた。

( 噫 )
( とおくで )

神鳴が響いている。
( かみなりが )
吹き荒れる嵐の前兆のように音が響いた。

http://zain.moo.jp/3h/