04:朧月夜
※三丕/パラレル戦国親子 [ 03:春霖 ]続き。

「子桓」
名を呼べば振り返る。
三成の養子として迎えた子は
健やかに成長し齢はおよそ十四を数えた頃だろうか。
(何せ拾った時の年齢が定かでは無いので適当に
年を当てた)
頭上で纏められた髪はさらさらと美しく
子桓の肩に零れた。
最初は酷い有様であったが
今は真逆、深窓の美しさとはよく云ったものだと
感心すらする。
文字すら知らなかった子供が非常に頭が良いという
ことに気付いたのも比較的引き取って直ぐのことであった。

「父母は知らぬ、私を育てた女が居た」
それ以外のことは知らないと云う。
しかしその振る舞いから三成は子桓はもしや
それなりの身分の子では無いかと推測する。
しかし本人がそれに連なる全てのものは無いと云うし、
父母の顔すら知らない、育ての親は疾うに戦で焼け死んだと
云う。全てが焼けて仕舞ったのだから知らない、と、
物云いだけは尊大だが思わずそれを赦してしまうだけの
奇妙な説得力のある子であった。
( 頭のいい子供だ )
あの戦の最中、本人は語らないが苦労も多かっただろう、
その中で他者の蹂躙を避ける為に自ら顔を、肌を
泥と炭で汚したのだという。
子桓があの姿のまま歩いていてはどれほど身形が悪かろうと
危うかっただろう。
事前にそれを悟り自らを貶めたというのだから
それを聴いた時は驚いた。

「何用だ、三成」
「外では云うなよ」
呆れ顔で云えば子桓は笑った。
「まさか、誰ぞいればちゃんと云うさ」
「そうであろう?『父上』?」
悠然と哂って魅せる様は
到底十四の子の表情では無い。
一種蠱惑的な笑みは見る者を虜にすると
忠言されたことさえあった。
しかし三成はそういった振舞いをする
子桓の本質を知っている。
望まれるままに振舞う生き方をする癖
本当は誰より優しく、己という存在を理解するが故に
孤独を生きようとする、生き難い生き方を
選ぶ子供であった。
「お前を成人させるのは厄介だな」
放っておく筈が無い、子桓を見れば誰しもが
そうなる。今は三成の庇護の元子桓をこの奥屋敷に
閉じ込めるように(本人が望んで其処に居るのだが)
生活させているが成人すればそうもいかない。
「心配無い、沢山妾を取って阿呆を気取ってやる」
女と見れば放っておかない愚かな男だとしておけば
世間も納得しよう、と哂う子供を見る
三成の心中は複雑だ。
既に親子以上の情念を抱いている。

「最初から私を小姓にでもすればよかったのだ」
それも考えた。
しかしそれでは子桓は目上の者に容易く奪われよう。
我が子とするからこそ三成の手元にあるのだ。
「それとも父と姦淫を結ぶような子だと公表すればいいか」
「莫迦な・・・」
子桓はゆるりと哂い、三成の頬に白い指を這わせた。
「この世にお前と私二人ならよかったのに」
云う言葉があまりにも切なく、
哀しい、
想いは深く親子を抉る。

しかしその背徳さえも
狂おしいこの想いに比べれば
薫る華のように美味だとさえ思うのだ。
朧月夜、淡い光の下、
笑う少年は三成に抱きついてそっと口付けた。

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