07:陽炎

ゆらゆらと揺れる影がある。
遠呂智の造った世界の季節はばらばらだった。
どうやらこのあたりは南蛮のようで
夏だった。
傾れ込むように木陰で曹丕と目合う、
茹だるような暑さがいっそ心地良かった。
曹丕の身体を弄り、己を突き立てる歓びに
身体が慄える。
快楽のうちに穿てば結合部から厭らしい音が
放ったものと一緒に溢れだす。
その卑猥さに眩暈を覚えるほど
互いを貪り合い、
一時の情欲に全てを忘れて耽った。

「お前はもっと淡白な男だと思っていたがな」
水辺で下衣だけを纏ったまま曹丕が
身体に残る汗と内部の残滓を拭う。
その様は酷くいやらしくて眼福とばかりに
三成は目を細めた。
「俺もそう思っていた」
ついこの間まで、そう思っていた。
しかし今はどうだ、曹丕という男に出遭い
身体を許され溺れるように貪る。
これでは性を覚えたばかりの子供のようだ。
白い指が水を絡めて肢体を撫ぞる。
ぱしゃりと水が跳ね落ちるのが
陽に反射して眩しかった。
認めて仕舞うのなら、三成は曹丕という男の
底が手に入るのなら何を棄ててでも
手を伸ばしてしまいそうだ。
この男の生き方を識れば尚のこと、
酷く淫猥な関係の癖、心根では
酷く誠実に三成は曹丕を愛してもいた。
それを自覚すればするほど曹丕という男の
得難さを痛感する。

何もかもに捕らわれている王子、
遠呂智然り、立場然り、
誰しも縛られるものはあるが、
曹丕のそれは三成の知るどの生き方よりも
辛そうだった。
しかし曹丕は揺るがない、その先に在るものの影が
何かを漸く悟った三成は想う。
この全てに縛られた男を、
氷の人形のような男を

( 誰の手も届かぬ遠くまで )

逃がしてやりたいなどと、
そんなことを想うのだ。
それがどういった愛なのか友としてなのか
別の淫蕩を含んだものなのか、
未だ判断をし兼ねるが、
ゆらゆらと影は揺れて三成を誘う。
その影に誘われるままに三成は手を伸ばした。

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