09:天泣
※三丕パラレル近未来

その日の天気は晴れ、
雨など降りようも無い。
天気予報とは云うものの、これは告知であり
決定事項なのだ。
午後3時から雨が降りますと云えば雨が降る、
7時に止むでしょうと云えば止む。
コロニーの生活はこうした自然を模した何かであって、
そういうものを見る度に人は地上や自然からは
離れて生きてはいけぬのだと思い知る。

( まるで遠くに引き裂かれた恋人同士だ )

FF6920軍事船団、この船団に所属する全ての人間は
軍関係者で構成されている。
惑星系を出て既に久しい、母なる星は遙か遠く、
資源を惑星を或いは空間構成のショートカットを捜しながら
宇宙を彷徨うことを運命付けられた軍団である。
曹丕はそっと手元の表示を確認した。
時刻は3時、昼の3時だ。
空を見れば晴れている。
ヴィジョンは晴れの空を映しているのに
どういうわけか雨だった。
部下に勧められて休息をと云われ、
少し遠出をしたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
高台にある此処は本部に居る時の息苦しさからは
幾分楽になるものの辺りには人一人いなかった。

否、訂正しよう、たった今駆けて来た男が一人。
同じようにこのあたりを散策していたのか、
急な雨に雨宿りをとこの高台の上に設けられた
屋根付きのベンチへと駆け寄って来た。
「降られた・・・」
「そのようだな」
うわ、と上着を脱いで頭の水を落としている。
何処から駆けてきたのか、
曹丕は降り始めた時には既に此処に居たので
どうということは無いが男の濡れ方は酷い。
「環境データのミスか」
「まだ発表は無い、今頃本部は大慌てだろうさ」
「然ながら狐の嫁入りというわけか」
「貴重な経験だ」
なにせ気候すら制御できる今になって
こんな事態に遭遇するなどいっそ幸運とも云える。
「曹丕特務士官だろう?情報部の」
おや、と其処で曹丕は隣に佇む男を見た。
酷い濡れ方をしていたし、止む無く上着で頭を拭く有様だ、
意識などしていなかったが、それが誰なのか曹丕は
漸く思い当った。
「三成か・・・」
顔を上げれば見知った男である。
「いつ此方に戻った」
「昨日だ、昨日の内に顔を出そうと思ったが報告に手間取ってな」
「NN3はもっと遠いと思ったが・・・」
「開発中の新機を試された、速いが肩が凝るな」
つい顔が綻ぶ。
成る程、普段は何も云わぬ部下が今日に限って
『高台の見晴らしは良いですよ』などと云うわけだ。
「あちらはどうだった?」
「どうもこうも無い、酷いものだ、自給率が下がっているのに大した
対策も出せん、埒があかぬから『死ぬ前に帰れ』と云ってきた。
お前こそどうなんだ、新しい配属先は?」
「くだらぬな、情報部など」
「特務士官のくせにか?」
その言葉に今度こそ曹丕は笑い、
そして三成の肩を叩いた。
「何にせよ、よく戻った。本部に申請しといてやる」
「特務配属をか?」
「安心しろ、精々扱き使ってやるさ」
はは、と三成が笑い、改めて曹丕を見た。
同期である男は少し疲れた様子だ。
成る程、曹丕の側近が三成に『高台へ』と云うわけだ。

「特務も何もとりあえず今は幸運にも突然の雨に見舞われているわけだがな」
「止む気配が無いな」
「そうだな」
「止むまでは此処でふたりきりというわけか」
「そうなるかな」
ふと、距離が縮まる。
戯れに近付く唇を啄めば
熱い舌先が激しく絡まっていく。
激しく零れそうになる激情に
いっそこの雨が止まねばいいと、その手を強く握り返した。

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