10:虎落笛

鳴る音があまりにももの哀しいので
目が覚めた。
ふと隣を見れば傍らに在った筈の
ぬくもりは無い。
三成は身体を起こしそっと
隣に在った筈の温度を確かめた。
「・・・」
まだ少し暖かい、曹丕が此処を出てから
それ程時間は経っていないようだった。

「また此処か」
曹丕はよくこの庭の隅にある四阿に佇んでいる。
今も真夜中だというのに薄着でぼお、と庭の花を
見ているようだった。
「起こしたか」
「いや、風の音でな」
下手糞な笛の音かと思った。と云いながら曹丕に
持って来た上着を掛ける。
「寒くないか」
そう問えば曹丕は決まって否、と首を振る。
そのかじかむ指先を三成は見えない振りをする。
「俺は寒い」
曹丕に寄り添えば、そこでやっと曹丕は三成に
身を寄せる。
酷く不器用で不格好でぎこちない
それでいて胸を締め付けられそうな痛みがある。
( 痛みがある )
この感情がなんなのか思い当った時
互いの間に隔たるものに三成は絶望した。

「寒い」
そっと曹丕を抱き寄せる。
いつまで、とは云えない。
いつまでこのままでいられるのか、
俺はいつまでお前の傍にいられるのか、
離せ、と微かに紡がれる言葉の裏は
離れた絶望を識るからだ。
別れを恐れるなら別れなければいい、
その絶望を味わいたくないと云うならば
出遭わなければよかった。
何度となく今まで思ってきた。
( この男と出遭わなければ )
出遭わなければただ己は己の在るがままに、
或いはこの男も在るがままに為せたのではないかと、
( しかし出遭って仕舞った )
この事実は今更変えようが無く、
互いを苛み、いつか来る別れに絶望する。

( 或いは死がふたりを別つまで )
否、それでも足りぬと互いを求める。
「さむい」

絡めた指はじん、と痺れをもたらし、
そっと額に口付ければ、
切ない痛みに苛まれる。
暗雲たちこめたる夜空は仄く、

( 俺はこの男と終わりたい )

いっそ互いに在るこれこそが
絶望なのだという気がした。

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