01:二人乗り

戦場で漸く探し求めていた相手の姿を
認めて、慌てて馬で駆け寄った。
「曹丕!」
聲をかけて、馬から降りれば曹丕は
振りかえり、何だお前か、とでも云いた気な
視線を向ける。
見れば曹丕は無残な姿で、
どれほど戦ったのか、
曹丕の部隊が壊滅と聴き、肝が冷えた思いで
慌てて部隊を引き連れて三成が駆け寄った次第で
あったが、どうやら曹丕は無事であったらしい、
わずか数名残った手練の兵と凌ぎ切った。
その為長い絹の髪は血に塗れ、
返り血か己の血かもわからないほどに
赤い滴りが溜まりを造っている。
泥と血に塗れたその姿に、よくぞ無事で、
としか云えなかった。

使いものにならなくなった剣を
不要と曹丕は地に投げる。
それを見届けたところで三成は我に返った。
慌てて曹丕の怪我を確認する。
汚れた顔や手を布で拭い、
曹丕の容態を診た。
「酷いな」
「それほどでも無い」
なんでも無いように振舞うのが如何にも曹丕
らしいが、傷口を拭うと思ったより深かったようで
痛みに顔を顰めた。
兵に合図をして本陣へと戻る為、馬を寄せる。
「乗れるか」
三成が騎乗してから曹丕に手を差し伸べる。
しかし曹丕はそれを払った。
「一人で乗れる」
「そう云うな」
どう見たってその状態では乗れるものでも無い。
( この強情っぱりが! )
思わず胸の内で毒づくが、そうも云っていられない。
一刻も早く侍医に診せねば、もっと酷くなるだろう。
最悪傷口から病にかかるやもしれぬ。
焦る気持ちが三成に行動を起こさせた。
馬から降りて、とにかく曹丕を騎乗させる。
そしてそのまま自分も後ろに騎乗した。

「降りろと、、!」
曹丕の言葉を遮って三成が叫ぶ。
「かまわん、とりあえずお前、もう少し屈め、前が見えぬ」
当然だ。曹丕の方が三成より背丈が幾分高いのだから
曹丕が前に乗って三成がそれを抱く形になると
前が見えない。
しかし後ろに乗せても黙って三成の背に掴まる男でも無いだろう。
曹丕の底を見透かしての行動である。
曹丕は暫し仏頂面を見せた後、
承諾したかのように三成に体重を預けた。
重いが、馬を飛ばせぬほどでも無い。
それにこの方が弱り切った曹丕を落とさずに済む。
三成は曹丕の首筋に顔を埋め、
そっと囁いた。

「無事で良かった」
その言葉に曹丕は目を閉じ、
意識を手放す。
体力など疾うに無い、気力だけで立っていたのだ。

「急ぐぞ!」
部下の者に、曹丕の配下のものを回収させ、
急ぎ馬を本陣へと奔らせた。
腕の中の体温は暖かい、
この温度を失くさぬように、三成はただ奔った。

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