02:ふくらはぎ or 足首
※懿丕

常よりよく着こむ男だ。
暑さにも寒さにも弱く、こうして時折
やりきれぬと愚痴を零したりするが、
平素は決してそのようなことは申さない。
天より高くその自尊心があるのでは無いかと
疑うほどの強情なので、この男が、
暑さにも寒さにも酷く弱いことや、まして
愚痴など零すなど想像すら出来ぬだろう。
だから司馬懿はわりとこうして二人きりで
過ごす時間が好きだった。

普段の仮面がぽろりと取れて
今日も暑い、などと曹丕の口から洩れる様は
なんとも、この冷血漢にも血が通っているのだと
微笑ましくさえ思えるからである。
「・・・然様で、暑うございますな」
この夏一番の暑さと云っていい程の猛暑だ。
まして今は昼間で、夜にでもなれば多少はマシにも
なろうが、陽が落ちるまで些か時間がありすぎた。
曹丕がこう零すのも無理は無い。
ちらりと曹丕を見れば矢張り着込んでいる。
夏生地とは云え、きっちりと着込まれた衣服は
しっかりと肌を覆っていて、これでは
曹丕でなくともバテるだろう。
「少し、お脱ぎになったらどうです?」と
云いかけた言葉をどうにか司馬懿は押し込めた。
頷く筈が無いのだ。
曹丕は体格を気にしている風がある。
父である曹操も、まあ云ってはなんだが、
さほど大きくは無い、それに比べれば随分身長も
あるのだから気にすることも無いのだが、
些か肉付きが悪かった。
曹丕の食の細さにも原因はあろうが、
どれほど鍛えようともあまり付かない体質で
あるらしい、脆弱な肉体と思われるのが厭なのか、
曹丕は滅多に肌を露出しない。
夏でも真白い肌はぞくりとするような色気がある。
「窓も開け放してはおりますが、こう風が吹かなくては
仕様がありませんな」
どうせ吹いたとしても茹だるような暑い風なのだ、
息苦しくさえ感じるだろう。
文官の殆どもこの暑さにやられて最近では夕刻からの
仕事の方が余程捗る。
曹操などは率先して水場へと足を運んでいるようであったし、
息子の曹丕とてこのように真面目に政務に取り組まずとも
少しは休んで父同様涼を求めて水場へでも行けば気分も
晴れように・・・
( まあ酔狂は私も同じか )
司馬懿とてこうして曹丕と二人部屋に籠り、
茹だるような熱さの中政務に励んでいる。
( こうも暑くては明日にも倒れよう )
流石の曹丕ももう限界であろうし、
さて、と司馬懿は考えた。
あらかたの仕事も片付いて何も無理に今此処で
仕事をすることも無い。
明日には曇りでもして今日より少しは仕事が
やりやすくなっているかもしれない。
そう思ったら、もう居てもたっても居られなかった。
筆を置いておもむろに立ちあがる。
なんだ、と顔を上げた曹丕の肩に手をやり、
「失礼、」と一声掛けてから、
衣服を剥ぎに掛かった。

「何をする・・・!」
抵抗するが、その様さえ暑さにやられて弱々しい。
矢張り、無理をしている。
その強情さに呆れつつ、司馬懿は固く結ばれた帯を解きにかかった。
「ものは相談ですがね、子桓様」
子桓、と普段は呼ばぬ名で囁きかける。
「こう暑くては最早何もできませぬ、今日はこれで終わりにしませんか」
莫迦な、と叫びそうになる曹丕をそのまま押し倒して、
馬乗りになる。
露わになった胸元が何ともそそられた。
「私の所為ということでかまいませんよ」
曹丕の薄い目が揺れた。
此処までしなければ折れることが出来ない男だ。
その辺りを心得ている司馬懿に、曹丕が喉を鳴らした。
「貴様の所為であろう、仲達、下心が無いとは云わせぬぞ」
司馬懿はそっと曹丕の足首を掴み、
着衣をたくし上げた。
ほっそりとした足首は真白で、目に眩しい。
その足に指を這わせる背徳的な喜びに司馬懿は慄えた。
そっと唇を寄せその身体を割り開く。
曹丕は諦めたように目を伏せ、「暑い」と呟いた。

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