12:頬杖

長い指が曹丕の頬を支える。
髪が風に揺られ、さらさらとなびく様に
三成は一瞬見惚れた。
惚気と云えばまだ良いかもしれないが、
この気紛れな魏の王子はいかんせん、
知ってか知らいでか、三成の預かり知らぬところで
他人を魅了してしまう。
それ故に、必要以上に曹丕に張り付くことになるのだが、
それを厭う様すら見せないのは流石に王子たる
彼の育ちの良さが伺えた。
基本的に何事もあまり顔に出さないが、
こうして時折、文人らしく、なにかに浸っている時は
なんとも云えない美しさがあった。
そんな曹丕を見つめる度に、
儚いような、虚勢ばかり張るこの男の
存外に脆い性質であるらしい繊細で柔らかい箇所を
護りたくなる。
そっとその長い髪に触れれば流石に曹丕が振り返った。
「何だ、三成」
至って険呑な物云いが曹丕らしくてつい笑みを浮かべてしまうと
それが勘に触ったのかたちまち曹丕の眉間に皺が寄る。
折角二人きりだというのに機嫌を損ねられたら
厄介だ。
三成は思うままに曹丕の頬を撫ぜ、
「美しいな」
と云えば、曹丕は少し顔を顰め、
それから少し三成から顔を背け、
「下らぬことを」と呟いた。

三成のこういった部分が曹丕は少し苦手である。
勿論三成には口が裂けても云える筈も無いが、
こうして臆面も無く、云われると
流石の曹丕もどうしていいのか戸惑うのだ。
思ったことをそのまま口にしてしまう男だ。
曹丕とて「うつくしい」などと云う言葉は
飽くほど聴いてきたが、
それはもう身に染みて一種の社交辞令的な
挨拶にさえ分類される。
けれども三成に云われると、どうも違うのだ。
三成は心底思ったことを口にしている、
その賛辞が真っ直ぐ過ぎて曹丕には少々居心地が悪かった。
さらさらと優しく髪を梳かれるのも
どうにも居心地が悪い。
このまま三成のやり方に付き合うのは性に合わない。
( ええい )
忌々しげに曹丕は舌打ちをしてから、
背後の三成に振り返った。

「先程から何だ、三成」
あれほど不躾に熱い視線を寄越して、
こうして我が物顔に髪を梳いて、
それならいっそ、
「欲しいなら云えばよかろう」
求められる方が自分らしい。
曹丕はそんなやり方しか知らぬ己に、やや自嘲気味に哂い
三成を誘った。
腕を首に絡ませ、三成の身体を引き寄せる。
力のまま後ろへ倒れれば流石の三成も焦った。
「おい!ぶつかるぞ!」
慌てて三成が曹丕を支え、床にぶつかる寸前で
曹丕の頭は三成の手によって庇われる。
そのままそっと優しく床に下ろされ、
互いに求めるままに口付けた。
熱いとろけるような舌の感覚がたまらない。
貪欲に求めれば求めるほど融けそうになる。
ひとしきり楽しんだ後、三成はゆっくり曹丕から
唇を離した。

「お前という奴は・・・」
顔にかかった髪を払い、三成は困ったように曹丕を見る。
「欲しいのなら云えばいいと云った」
「無論、欲しくない訳がなかろう」
お前を前に、と三成が云えば、
曹丕は満足そうに白い喉を鳴らした。
「ならば求めればよかろう、簡単なことだ」
そう云い切って仕舞う曹丕に、三成は未だ困ったような
表情を崩さず、そして悟ったように頬を撫ぜる。
「お前がそんなやり方しかできぬのなら、それもいい」
早くしろ、と云わんばかりの曹丕の態度に、
三成は愛しさを禁じえない。
とびっきり聲を優しく甘く絡ませながら、
三成は曹丕の衣を剥いでいく。
その様子に満足した様子の曹丕に三成は囁いた。

「他のやり方は俺が教えるさ」

その言葉にじわりと熱く何かが融ける音を聴く

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