13:白衣+黒のハイネック
※パラレル

三成はその扉を開けたとき少々ぎょ、とした。
目当ての人物を捜しあてることはできたのだが・・・
というのも目当ての人物は多忙を極めており、
最初に聴いた場所は、研究塔のオフィスと云われたのに、
行けば移動していて、何処其処に、と云われ、
そして次はあそこに、その次は、と場所を
盥回しにされ漸く捜し当てた人物である。

「一体何を・・・」
三成が驚いたのも当然である。
曹丕は水着に白衣という何のプレイか少々マニアックな
恰好であった。
「噫、三成か」
曹丕は手近にある画面を確認しながら、
ちらりと三成に視線をやった。
「海洋学にまで手を出したか」
此処は実験施設の中のプールだ。
汐の匂いのすることから海水だろうか、
「まあそんなところだ」
曹丕は結果に満足したのか、
乱雑に置かれたテーブルの上の珈琲を手にする。
すっかり冷えていたのか、ものの一秒もしない内に
「不味い」とゴミ箱へ投げて仕舞った。

「疑似体の育成途中だ、生理食塩水の中で培養している」
三成と共に扉の外の自販機まで歩く。
曹丕がボタンを押すと、ピ、と機械的な音がして、
暖かい珈琲がカップに注がれた。
三成もそれに続き、珈琲のボタンを押す。
互いに啜りながら壁に凭れ経過報告を
確認した。
「流石に生体工学の権威と云ったところか」
曹丕の優秀さは内外を問わず知れ渡っている。
三成の大学が曹丕という頭脳をキープしているのも
この巨大な研究施設のお陰であった。
曹丕様様ではあるが、
三成はこの研究に引き籠りがちな友人を心配して
よく外に連れ出している。

「少しは家に帰れ、もう一月も籠りっぱなしだろう」
その言葉に曹丕は、おや、と首を傾げた。
「先週一度帰ったぞ」
「家に物を取りに行った僅か3分を帰ったとは云わない」
三成のいつものお小言に曹丕は肩を竦め、
心外だと云わんばかりに三成を見る。
しかし三成は退かなかった。
「今日は駄目だぞ、曹丕」
「何故だ」
「夏侯惇から連絡があった」
「元譲が?」
まさか、と顔を歪める曹丕に、
三成はその通りだ、と頷いて、
飲み終えた珈琲のカップをゴミ箱に捨てて、
扉を開ける。
扉を開ければやはり強い汐の香がした。
そのまま曹丕のものであろう、椅子に
かけられた黒のノースリーブのハイネックを取り
曹丕に投げる。

「どうせ、今日明日に大きな変化があるわけでもなかろう」
「しかし」
尚も食い下がる曹丕に、諦めろ、と三成が言葉を投げた。
「曹操殿が来日だ」
「矢張り父か・・・」
はああ、と溜息を吐く曹丕を促し
三成は歩き出す。
「早くしろ、身形も整えねばならん、外に車を待たせてある」
急げ、と促して漸く、諦めがついたのか曹丕が、がたがたと机を整理し、
研究員に何事かの指示を出して、帰り仕度を始める。
その様子を確認してから三成は携帯を取り、
メモリに登録されている番号を押した。

「ええ、今から連れていきます」
「はい」
「放蕩息子を連れて行くと伝えて下さい」
電話の相手の安堵の溜息に三成は笑い、電話を切った。
そしてもそもそと着替え始めた曹丕を見る。
まったくこの男は何もわかっていない、
「白衣に水着など・・・とんでもないな・・・」
己の価値をまるでわかっていないのか、
そんな格好で普段歩いているのかと思うを眩暈がする。
こうなっては、今まで以上に自分が張り付いていなければ、と
三成は決意を新たに、曹丕を促し、汐の香のする部屋を出た。

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