14:体液

熱い、
身体もそうだったが、全身を取り巻く
空気が重く、息苦しく感じる。
「・・・っ」
堪え切れず曹丕が、微かな悲鳴を上げれば
三成が曹丕を気遣うように、頬に掛かった前髪を
払った。
「退け」
いい加減にしろ、と少し睨んでみても
三成は退く様子は無い。
「退いていいのか」などと云う始末だ。
「構わぬ、退けと云っている」
曹丕の物言いが気に入らなかったのか、
三成はふん、と鼻を鳴らし、
ずい、と曹丕に詰め寄った。
「此処はそうは云っていないようだがな」
「・・・っ」
ぬるりと、其処を撫ぜられれば曹丕の全身に
快感が奔る。
「まだ欲しがっている」
三成の確信めいた言葉にカッと頭に血が昇るが
如何に曹丕といえども、三成に圧し掛かられて
いる状態ではどうにもならない。
せめて、と睨むが、お前の睨みなど怖くも
なんとも無いと、悟られている今においてこれも
意味が無かった。
暫し曹丕は唇を噛み、眼を泳がせ、
そして全身の力を抜いた。
「ならば好きにするがいい、三成よ」
こうなってくるといっそ勝気に微笑さえ浮かべるのが
曹丕という男である。
挑発的な視線に三成は息を呑み、
そして喰らいつくように性急に曹丕に
猛りきったものを挿れた。

「・・・っは、ぁ・・・っ」
既に先程放たれたものが中にある、
何度まぐわったのか最早わからぬほど三成を受け入れていた。
三成はこういった激しい攻めをすることがある。
大抵の原因は曹丕にあるので、それを内心承知していて、
時にはわざと三成にそう攻められるように曹丕が
仕向けることもあった。
しかし今日のはまるで心当たりが無い。
どうせ何か下らぬことを勘違いでもしたのだろう、と
曹丕は三成の胸中を測る。
独占欲など、自分が相手を独占したいのならわかるが、
他人に向けられるのは厭だった。
しかしどうだろう、今曹丕は三成にその欲をぶつけられている。
嫌悪するどころかむしろそれが心地良くすらあるのは
何故なのか、未だに曹丕にその答えを出せなかった。
時に甘く優しく、謳うように曹丕を融かすこの男、
その身体からは想像もできないような情熱と激しさを
持つこの男、その熱も激しさも今は曹丕一人に
ぶつけられている、それを思うと、どうしようも
無く泣きたいような、縋りたいような、そんな感覚に
呑まれていく。
「・・・あ、あ、く、、、ぁっ」
ぶるり、と曹丕が慄え再び中で熱いものが放たれるのを
感じる。ぐちゅぐちゅとぬめる音がして肌が擦れる度に
吐き出されたものが内股を伝って漏れていく。
しかし三成の攻めはそれで止むことは無く、
そのまま足を抱えられ壁に押し付けられた。
壁と三成の間に挟まれた曹丕は結果的にその場所で
浮く羽目になる。唯一の支えにと三成の首に手を回したところで
激しく揺さぶられた。
不安定な体勢のままより一層三成と深く繋がる。
首筋を這う三成の舌が、中を刺激するその激しさが
どうしようも無く曹丕を追い詰める。
このような淫らなあられもない格好で攻められるなど
曹丕には耐え難い。しかしそれを自覚する間もなく
与えられる三成の激しさに、否応なく身体が疼いた。
「う、、あッ、、アッ、、!」
息をも吐けぬ激しさに曹丕自身が絶頂を極める寸前で
三成が動きをぴたりと止めた。

「・・・っ、ぁ」
三成の身体を支える僅かな動きに曹丕が身を慄わせる。
気付けば三成の顔は鼻先が触れるほどに近い。
あともう少しで達せるのに達せない、もどかしい感覚に
曹丕は自ら腰を揺らそうとするが三成に抱えられた体勢では
上手く動けなかった。
悔しげに三成を見れば、三成は曹丕に唇を落とす。
「欲しいか?」
欲しいに決まっている。しかしそれに頷くのは
曹丕の矜持が赦さない。
「何を・・・」
憎まれ口を叩く曹丕に三成は、ぐ、と自身を強く押し込めて曹丕の中を
刺激する。そのままゆっくり揺らしていけば、
は、は、と曹丕の息が洩れた。
この上なく淫らな吐息に三成自身、このまま思う様貪りたくなるが
それはどうにか堪える。
( どうしても聴きたい )
曹丕の口から、その形の良い唇から三成が欲しいと強請らせたい。
その為にこうして三成自身も限界を堪えながら我慢している。
「俺が欲しいと云え」
早く云って欲しい、美しい詩を奏でる口で、
人を惑わす淫らな身体を揺らして、
三成だけが欲しいと強請らせたい。
( 早く、早く、はやく、 )

ゆらゆらと揺らすその僅かな刺激に曹丕は身を慄わせる。
絶頂寸前で止められ無様に壁に縫い止められた体勢で、
斯様な屈辱に曹丕の唇は戦慄き、そして目を閉じる。
ぞくぞくと湧きあがる酷い快感に曹丕はとうとう折れた。
「早く、しろ、」
「何をだ」
意地悪な言葉を放ち、尚も強請らせようとする三成に
曹丕はゆっくり口付ける。
その様は矢張り王者のそれであった。
息を吐き、欲情に濡れた眼で三成を見る。
「どうにかなりそうだ、、もう、っ、あ、、」
僅かな動きにすら耐えきれず、聲を洩らす曹丕が
途切れ途切れに唇を動かす。
聲には成らない言葉で、望んだ言葉が与えられた。
「あ、、アアアッ、ひ、ア、み、つな、、ッ」
待てという制止を聴かずに
三成は弾かれたように、曹丕を激しく揺らし、
灼熱を解き放つ。
その熱に融かされるように曹丕も絶頂のまま達した。
びくびくと二度三度と解き放ち、それから
ぐずぐずと崩れ落ちていく。
その身体を支えながら、三成は曹丕の頬を撫ぜる。
既に意識は無いようで、どちらのものかわからぬほど
濡れた身体を指でなぞった。


「全く、云ってくれる・・・」
三成は曹丕の端正な顔を眺めながら
口元に手をやった。
今、誰かにこの顔を見られたら屹度真っ赤だろう。

( 全部欲しい )

三成の全てが欲しいなどと、そんな言葉、
「やらぬわけにはいかないでは無いか」
強請らせてみたものの、
その強烈なお強請りに、
こいつには敵わぬと三成は天井を仰ぎ見た。

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