17:手のりサイズ
※パラレル近未来

その掌に納まるサイズのそれはホログラフィである。
まるで実際其処に居るように見えるが
何分実際の16分の1スケールである。
大変に小さかった。
最近入手したそれは人気商品で、皆こぞって
持ち歩く、三成も仕事の関係で貰える幸運に
出逢ったわけだが、多機能なそれを遣いこなす
ことも無く、専ら通信とヴィデオの再生に使われた。
再生されるのは思い出の風景ばかりである。
音声をオンにすれば静かな語り聲も聴こえるのだろうが、
何分此処は公共機関である。それは控えた。
しかしその緑多い風景の中でそのひとは
穏やかに動きまわり、時折こちらを見て微笑む。
それがなんとも愛しくて三成は、じ、とそれを見つめる。
触れようとして何度手を伸ばしたことか、
しかし矢張り映像に過ぎないそれには手が届かない。
やがて映像の中のそのひとは薄い色の眼を手元の
本に向ける。これ以上は撮るな、と手を翳すが
カメラマンは面白ろそうに撮り続ける。
次第に抗議する様子も無くなりその人は本に没頭する。
穏やかな風が揺れて、柔らかな日差しがそのひとを照らす。
三成は幾度となくそれを見つめている。
映像の中のそのひとを確かめるようにずっと見つめている。

(曹丕・・・)
映像の中のそのひとの名は曹丕と云った。
三成と時を同じくして名を馳せる技術者、
曹家をバックボーンに今や巨大企業へと成長させた男。
ニュースなどでよくその姿を見かけるがいつだって
曹丕は無表情に淡々と仕事をこなしていた。
(もう随分前になる・・・)
最後に曹丕にあったのは二年前だ。
まるきり連絡をしないというわけでは無いが
大概仕事の上でのことであったし、曹丕自らという
わけにもいかない。三成と曹丕は仕事上でのパートナーで
あったが経営にまで三成は関わっているわけでは無い。
よって未だに個人的に連絡を取るということの方が
珍しいのだ。疎遠になってもおかしくない関係だった。
しかし三成は常に曹丕を想っていたし、恐らく曹丕もそうなのだろう。
三成が新たに着手した計画に、頷き、そして手を差し出した。
互いに手を握り合い、意思を確認する。
三成が地上で計画に携わっている間時を
同じくして曹丕も別の計画へと移動して仕舞った。
次に会うのは互いの計画が成功した時だと、そう云って
仕事に没頭しているうちに今になって仕舞った。

(これはまるで手乗りサイズだな)
そっと映像の中の曹丕を装置ごと手に取れば
いよいよそう思える。
もう過去になって仕舞った映像の中で曹丕が穏やかに
微笑む姿はまるで今もその時間にいるような気分になる。
(しかしそれも今日までだ)
今日セレモニーがある。
計画の成功と新たな軌道を開くその完成披露が、
三成は地上で、曹丕は宇宙で、それぞれに成してきた
実績が披露される。
そして今三成は軌道エレベーターを登り、
曹丕の元へ向かっている。

逢えたら、何を云おうか、
沢山考えてきた。
けれどもきっと自分は曹丕をただ抱き締めるだろう。
不器用で、優しいそのひとを
何も云わず、ただ、抱き締めるのだ。
それを想い、三成は手の中の曹丕に微笑んだ。

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