20:食べる

同じ作業の繰り返しだ。
曹丕は先程からゆったりとした動作で
手にした葡萄を一摘みづつ口に運ぶ。
一定のリズムでもあるように一連の動作は
優雅で計算されつくされた美しい食べ方だった。
(葡萄もああ食べられれば本望だろう・・・)
そう感心して仕舞うほど曹丕は殊更丁寧に食べた。
常より綺麗に物を食べる男である。
曹丕ががっついてものを食べることなど想像も
出来なかった。
戦の時においてもそれは顕著である。
携帯食ならまだしも、腹が減っているであろう
曹丕の前に置かれた随分前に炊かれた櫃の中の
米さえ、自らの手では食さなかった男だ。
(三成が発見した時に「何故食べぬ?」と問うたら、
「どうやって食す?」と返され絶句した。
米を器に盛って食べるということをしたことが
無いらしい、その時は三成が簡単に握ってやった)
その様な様なので、三成は常々曹丕の食に対する
在り方に感心したり絶句したりと忙しない。
故にこうして優雅な動作で気に入りの果物を
食べる様などは見ていてなかなかに面白かった。

「先程から何だ、三成」
一方見られている曹丕はやや不機嫌だ。
気持ち良く葡萄を食べているのに
このような不躾な視線を向けられれば
気分も台無しである。
「いや、興味深いだけだ」
「何が」
曹丕は手を休めることなく葡萄を口に運ぶ。
その動きを目線で追い、しなやかで長い指が
うっすら歯を覗かせる唇にその玉を運ぶ様を眺める。
「いやらしいな」
その言葉に一層深く眉間に皺を寄せ
曹丕は三成を睨んだ。
「葡萄に嫉妬したい気分だ」
「ほう、下らぬことを」
三成の目線に熱が籠っていることに気付き
曹丕は挑発的に三成を見た。
三成は立ち上がり曹丕に近付く。
「お前の食仕方がいやらしいのだよ」
「食すということにやらしいもなにもなかろうが」
不穏なのは貴様の胸中であろう、と曹丕が云えば
三成は口端を歪め
そのまま曹丕を引き寄せた。

「・・・っ・・・!」
絡め取られた舌は熱い。
思ったよりずっと熱い三成の舌が曹丕の舌を舐め上げる。
歯列の裏を撫ぞられれば、ぞくりとした快感が奔った。
ねっとりとゆっくり撫ぞったかと思うと飲み込むように激しく舌を
絡められ、脚が崩れそうになる。それを見越したかのように
股の間に膝を入れられ下肢が刺激された。
「く、ぁ・・・っ」
激しい口付けに息もままならない、唾液が口端を伝うがそれにさえ
構っていられなかった。
曹丕は圧し掛かる三成をなんとか押しのけ、はぁ、と息を吐いて睨む。
「情熱的だな・・・」
この男との咬合はいつも唐突だ。
それに腹が立つこともあれば煽られる時もある。
今日は後者だった。
「だが悪くない」
そう云い放ち曹丕は三成を引き寄せ肩に腕を回し
口付けを再開した。
これでは仕掛けた三成が食べられているようだ。
腰を引き寄せ、お返しにと激しい熱を絡めれば、
曹丕は満足そうに喉を鳴らした。
それに気付いて三成は眼を細め、そっと笑う。

「お前でもがっつくのだな」

何の話だ、と三成を睨む曹丕に
三成は笑い、そしてその身体を押し倒した。

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