004:オカマ
※パラレル、高校生。

辺りは盛況のようで、
人の出入りする声が響き渡る。
爽快な秋空には大きな看板が掲げられ、
今日と云う日を盛大に祝っていた。

オカマだ、オカマだと云うので何事かと思った。
「何だ、お前か」
何かと思えば下らない。
今日は文化祭である。
「酷い、殿・・・!」
目の前の男はふりふりの洋服を着せられ、
(思えばよくもまあこんなLLサイズがあったものだ)
ご丁寧に髪の毛まで巻かれている有様だった。
「保護者で来たんですよ!なのにこんなの着せられて!」
着せられるも何も、そういう催しなのだから仕方ない。
「諦めろ、左近、西塔はそういう話になっている」
「何が悲しくてオカマカフェなんですか!?」
「ごつい男がひらひらの洋服で、いいネタだろうが」
三成は実行委員の書類を纏めて、立ち上がる。
「罰ゲームみたいなものだ、諦めろ」
十五分ほどその服でうろついて、写真を撮れば終わりである。
くじ引きで決まったのだから仕方無い。
「恨むなら自分のくじ運を恨むのだな、左近」
がくりと項垂れる家人に、容赦無く云い放つ。
恐らく三成の辞書に容赦という言葉は無い。
興の乗った女子生徒に念入りに化粧までされたらしい、
体躯に合わない装いに当たりから笑いが洩れる。
実際こんな男ばかりがターゲットになって皆から笑いを取るのが
目的のイベントだった。
文化祭のいい余興である。

「しかし、ですね、殿・・・」
尚も食らいつく左近を呆れた顔で見つめる。
「寄るな、うっとおしい」
露骨な主人の言葉にいっそ転職でもしようかなぁと
考えてしまう左近であったが、今更そんなことできるわけもない。
「あと五分はその格好でうろつくのだな」
話を聞く様子の無い三成に左近はどもった。
自分はいい、こうなってしまってはもう恥も飲む。
しかし問題はそうでは無かった。
「いえ、そうでなくて・・・確か一緒に曹丕さんが・・・」
「は?」
時が止まる。
曹丕はこの学園屈指の名家の出で、容姿端麗、頭脳明晰、
どこを取っても非の打ちどころのないお坊ちゃんである。
そして三成が唯一夢中になっている相手でもあった。
「だからですね、曹丕さんがくじを引きまして女装を・・・」

瞬間三成は走り出す。
「罰ゲームだから諦めろと仰ったんじゃ」
「莫迦!そんな格好の曹丕を野放しにしておけるか!」
なんと云っても純粋培養の御坊ちゃまの曹丕である。
対して深く考えずに着ているに違いない。
かの麗人はそういったことに無頓着だ。
己がどれほど魅力的かなど知りもしない。
俺の曹丕が犯される!と三成は駆けだした。

『あー、あー、生徒会連絡。曹子桓、曹子桓に手を出した者、
または写真を撮ったものは生徒会権限において厳罰に処す、
見つけた者は至急生徒会に連絡せよ!』


「そこのイカ焼きを三つ」
放送を他所に背後でとびっきりの美女に扮した曹丕が
文化祭を満喫していることは勿論知らずに。

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