005:居眠り

おや、珍しい、と思った。
三成だ。
よく働く男が、陽の温かさと心地良さに
誘われるように、卓に肘をついて眠っている。
それが作法に適っていないことなど明白であったが、
あまりにも珍しいので音を立てないように椅子に着いた。
起こすべきか、いっそ蹴ってでもやるべきか、
躊躇するが、結局物珍しさに負けて観察することにする。
口は悪いが見目はすこぶるいい男である。
春風がその髪を揺らせばさらさらとなびいた。
薄い色の髪が午后の陽射しに反射して眩しさすら覚える。
容姿も性格も曹丕とは正反対の男だった。

敵を作り易い男。
三成への心象はそれだった。
およそ後暗い策とは無縁の男だ。
正直すぎる性根はけっこうだがあまりに
曹丕とかけ離れていて、今こうして共に在ることの方が
不思議に思える。
しかし現実にはこうして三成と共に政を片付けているし、
この奇妙な縁は確りと互いを結びつけている。
三成の外見とは裏腹に酷く情熱的な部分は
未だ曹丕を捕えて離さない。
( あいするということを根気強く教えたのもお前だったか )
ひとつひとつ氷を融かすように曹丕に心で、身体で
情熱を説いたのも三成だった。
振りはらっても振りはらっても男は諦めることなく、
曹丕を想う。
それに絆される形でとうとう折れたのは曹丕だ。
この男の何処にそんな情熱が隠されているのかと
時折驚くが、けれども実際褥の中でも情熱的な男だった。

目を細め三成を見る。
三成は未だ心地良い眠りの中で、
曹丕は不意に窓の外を見た。

外は晴天。
季節は春。
爽やかな風にゆらゆらと揺れる緑の音。
( 誘われるのも悪く無い )
そっと曹丕は笑い、三成のように不作法に
卓に顔を寄せる。
ひんやりとした冷たい石の感触がなんとも気持ち良い。
春の眠りに誘われるまま、曹丕は目を閉じた。


ぎょ、としたのは三成だ。
起きてみれば辺りは夕刻、陽も沈もうかという頃合いで
隣を見れば大国の王子がひとり卓に伏して眠っている。
「寝過ぎたか・・・」
伏せる曹丕は起きる気配も無く、
三成は困ったように笑みを浮かべ、そっとその愛しい者の髪を撫ぜた。

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