寮と云うからには、勿論多くの生徒が其処で生活を
しているものであって、その多種多様有象無象に過ごす
生徒達を監督するのが寮長であり、故に、多少の独断や
ほんの少し他の生徒達よりも権力を持った存在が不可欠であった。
築何十年か考えたくも無い、見た目に非常に古い寮ではあったが
内装は三成が寮長に就任してから、校長に何癖を付けて
一度リフォームさせているので、中は綺麗なものだった。
そのリフォームに当たっても三成が何か薄汚い取引を
したのだとまことしやかに囁かれているが真偽は
闇から闇へ、そのほどは知れない。
何せ三つあるうちの全ての寮では無く、
三成達の所属する『冬木立寮』のみがリフォームされたのだから
その取引があったという噂も真実味が増すというものであった。
どういう手を使ったのかは全く不明だが故に三成は非常に
綺麗好きであるということだけははっきりしている。
この少し放っておけば魔窟と化す汚い男子生活の様に三成が
耐えれる筈も無く、
三成は、ばっと手をかざし指示を出した。
通報は異臭のする部屋があるということだった。
マスクをした三成が叫ぶ。
「五班から十班まで出動!駆除開始!」
ばたばたと同じくマスクをし、各々に掃除用品を持った
いわゆる『三成派』と云われる生徒達が部屋の前に立った。
「目ざわりなのだよ!!」
掛声と共に異臭部屋のドアが開かれ、中にいる生徒を
風呂場へ連行する第一陣が引いた後に、
其処は徹底して洗浄されることになる。

「御苦労なことだな」
曹丕はその様子を優雅に見つめ、
淹れたて、そして挽きたての豆で淹れられた
温かい珈琲を啜った。
三成は曹丕に、ふふん、と誇ったような笑いをし、
それみたことか、と同じく娯楽室の椅子に座る。
どたどたと激しい攻防の音が聴こえるが
三成の部隊は優秀であった。
的確に汚物を分け、洗濯物、食器類、その他元が何であったのか
すら原型を留めていない何か、など信じ難い汚さの
魔窟を手際よく片付けた。
「120人近くこの寮に居るのだ」
俺の眼が届く内は此処は魔窟になぞさせん、と
云い方は格好いいがつまりは極度の潔癖であった。
曹丕はそんな三成を眺め、思う。
恐らくこの男は自分より潔癖症なのだ。
自分の内を想うと時折それがこの男に背いている気がして
離れるべきなのだと漠然と思う。
しかしそんな時三成は決まって謀ったように曹丕に云うのだ。
「大丈夫だ、何も心配など無いよ、」
曹丕、と云われれば、曹丕は少し驚いて、
そして目を伏せる。

「私はお前のそういう処に救われているらしい」
三成は微笑を浮かべ、何これしきのこと、と
曹丕の髪を撫ぜた。
曹丕はその心地良さに、呑まれていく、
できればずっとこの手があればいいのにと思うほど、
三成は再び立ち上がり指示を出しに行く
曹丕はその様子を面白そうに眺めながらゆっくりと珈琲を啜った。


02:三成機動隊

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