曹丕と三成の起床時間は午前六時であった。
毎朝きちんと決まった時間に起きる。
朝練の有無で時間配分は変わったが
朝六時の起床時間だけは必ず同じであった。
寮則によると、朝食は朝六時半〜八時、
ついでだがお風呂は夕方六時〜夜九時半まで、
そして夕食は夕方五時半〜夜の八時まで、というのが規則であった。
その間なら何時食事を取ろうが風呂に入ろうが
構わなかったが、だいたいは、寮の割り当てられた部屋や
歳で時間帯が決定しているのが慣例である。

そして三成の日課は此処から始まる。
曹丕は非常に寝汚いひとであった。
一年の最初の頃はそんなことは無かったのだが
それでもこの傾向は一年のゴールデンウィークを
過ぎたあたりから発揮されている。
曹丕は朝に猛烈に弱い。
三成はそんな曹丕のベッドへ赴き、
布団を引っぺ剥がし、目も開いていない曹丕を
どうにか起こして、顔を洗い、歯を磨き、
制服に着替えさせ、ネクタイを締め、
食堂へ引き摺るように連れていって、二年になってから
バイキング形式に変更された朝食メニューの中から
適当に、尚且つバランス良く、朝食をチョイスして
曹丕に無理やりでも食べさせて(そうでもしないと、
この曹子桓という男、食が細かった)
靴を穿かせ、鞄を持ち、学校へ引っ張って行くという
大変な作業であった。
無論、曹丕のことだ、この美貌なので、
そんな苦労を買ってでも背負いたいという人間は
山ほどいたが、そんな輩にこんな無防備な曹丕をまかせたら
何をされるかわかったものでは無い、
ので三成は頑なに容認しなかった。
「起きている時は明晰な癖に・・・」
半ば呆れ、半ばそれに愛しさを覚えながら三成は
曹丕を伴い朝の路を歩く、基本的に部屋でするが
時間が間に合わなかった時は曹丕の教室で曹丕の髪を結うのが三成
の習慣であり愉しみであった。
起きている時はあれほど明晰な頭も
こうなってはてんで駄目であるらしい。
曹丕曰く授業が始まるあたりから徐々に目が醒めてくるらしかったが、
以前テストの時、開始三十分寝こけていて、「気付いたらあと二十分だった」
と云った曹丕に眩暈を覚えた。
ちなみにそのテストは残り二十分で見事に書き終えたのだが、
名前を書き忘れるという大失態を犯し、当然零点なのであるが、
気のいい教師が、曹丕の筆跡に気が付いて(曹丕の字はそれは綺麗なものだった)
点数をつけてくれたというエピソードがある。

曹丕を教室まで送り届け、(曹丕のクラスは二年楓組であった。
三成は松組である。この学校のクラス分けは、桜、松、杉、檜、楠、楓と
全て日本の樹木であった。なんとも雅なものである。)
ご丁寧に一限目の授業の用意をしてやり
三成はそっと、曹丕の絹のようにしなやかな髪に櫛を通す。
ゆっくりゆっくり丁寧に、髪一筋に至るまで梳かしてから
曹丕の髪を一つに結わう、この瞬間が三成は一番気に入っていた。
まだ教室には誰もいない。
三成はそっと曹丕に口付けた。

「眠り姫はいつ目覚めるか」

冗談めかしに呟いた言葉に矢張り曹丕は眠ったまま、
三成はその長い髪に唇を寄せた。


03:眠り姫
未だ醒めやらず

http://zain.moo.jp/3h/