昼食は基本的にチケット制である。
購買もあったが、そんなものを使うのは
自宅通学者か懐に余裕のあるものだけであり、
大多数は学食で食事を済ますのが常であった。
しかしただの学食と侮ることなかれ、
流石は名門私立、この学食の為に入学するものが
居るほど、食事の種類も量も申し分無い上に
味も絶品であった。
故に毎度学食では昼食を繰り広げ戦争が行われる。
その上、この学食のチケットは寮生に取って、
賭けの対象にされることがあり、
麻雀、カード、花札、果てはTVゲームなどで
勝負をしてそのチケットの数を制する争奪戦が
繰り広げられているのもまた娯楽であり、
創立より百年かけて培われた寮生全ての文化であった。
笑うものがあればその影で泣くものもある。
まして売買されるチケットを購入する軍資金まで
注ぎ込んで、賭けに没頭しこれからの社会での予行演習かのように
自滅の道を辿った生徒は泣き寝入りするしかなかった。
そうなると辿る道は一つ、このまま泣き寝入りをするか、
もしくは、伝手で分けてもらう、
もしくは、親の仕送りのカップ麺で凌ぐ、
もしくは、

生徒会室の前に立つ、

のどれかであった。
生徒は緊張した面持ちで生徒会室のドアを叩いた。
何せ次のチケットの支給まであと一週間、
育ち盛りの学生にはこのチケット無しは辛い、
耐えがたい、もう此処に縋るしか無いのだ、
そう云い聞かせて、失礼します、とドアを開けた。

「何か御用ですか?」
生徒会室の、この男は書記だろう、
その男に云われて、すみません、チケットを、
と遠慮がちに口を開けば、
会長、と呼ばれた男が振り返った。

生徒会長である。
生徒会長の名は曹子桓、曹丕その人であった。
またの名を『あらゆる賭け事において無敗の神の眼を持つ悪魔の男』
である。曹丕は、ス、と長い指でチケットを扇状に広げ
口端を釣り上げた。

「手持ちのチケットが無いならば仕方あるまい、今ならお買い得だ」

「ええと三年の・・・ああ、まだ借金ありますね」
書記と会計の男がそれぞれ帳面を確認して、
現在の借入状況をチェックした。
その情報を元に曹丕が査定をする。
「では三枚、何、あと一週間だ、代金は来週チケットで返すか、
それとも親からの仕送り品、その他代用品、もしくは金銭でもかまわない」
「金銭でしたら来週のレートに乗っ取って支払って下さい」
会計の男が補足する。
その時、曹丕一派が占めているチケットの枚数によって
レートが変化するので、金銭だと返し時を見極めなければ損をする。
しかし早く返さないと利息があるので(8日間で一枚加算である)
早く返さないと借金がかさむ。
しかし背に腹は代えられない。
「でも三枚なんてあんまりだろ、」
せめてもうちょっと、と云ってみるが、曹丕はにやりと哂った。
「私も君が返していてくれれば、こんな真似はしないで済むのだが」
何、本来なら君の借入では二枚なのだが、一枚はおまけだ、と
優雅に哂う男はこの学校の生徒会長であり、
曹丕派、という曹丕信奉者達の頂点に君臨しており、
尚且つ学校きっての絶世の美女ならず美男であった。
生徒はチケットを受け取り捨て台詞を叫ぶ、

「畜生!足元見やがって!このセレブめ!!」

なんとでも云い給え、と哂う男は悔しいが美人だ。
空恐ろしいほど冷たい双眸で微笑を浮かべる様は
なんとも言い難い魅力がある。
この顔見たさに借入する莫迦も居ると聞くが、
生徒は自分がその莫迦にはなりたくねぇな、と
がっくり項垂れて、生徒会室を後にした。
「来週のチケット返済、どうしよう・・・」


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