曹丕は眼鏡をかけている。
普段から、基本的に自室と風呂以外で
外されることの無い眼鏡に三成は少し安堵していた。


一年の時を思い出す。
あれは入って直ぐのことだった。
当時寮長だった今は卒業して仕舞った男が副寮長を伴って
就寝の点呼をしている時だった。

「今年の一年、凄いの入ってくるって聴いてたけど・・・」
二人して曹丕と三成を交互に見る。
当時の自分達にはさっぱりわからなかった。

「お前ら・・・なんかもう別世界だよ・・・」

美しすぎて・・・眩しい、と云われた時には
何かの冗談かと思ったが、新手の苛めでもなんでも無く
それが本気だと取れたのは、曹丕の美しさに納得している
自分が居たからだった。
「お前達二人な、顔がキレーだから一緒にしておいた」
「は?」
云われている言葉の意味も意図もまったく解らない。
隣のルームメイトの曹丕も訝しげな顔をしていた。
寮長は少し言葉を濁した様子で、手を上げる。
「いや、まあ、その手の奴が居るんだよ、」
「はぁ」
「男子校にでもなればオカズにされるぐらいなら
まだいいだろうが、なんぞあったらシャレにならんからな」
云われて漸く三成は内容を理解した。
慣例により要するにそれなりに見目麗しい、もしくは
男色の餌食にされそうな新入生は率先して、
こうして同じ部屋にすることにより保護されるという運びなのだそうだった。
その意味を理解した曹丕はぽつりと呟く。
「怖気が奔るな」
しかし三成はそのコメントに是とも否とも唱えることが出来なかった。
勿論、三成にそういった種の経験など無いし、考えたことも無い、だが、
何となく、曹丕の顔をじ、と眺めて、
( 成る程、確かにこれはイケるかもしれん・・・ )
そう思っていたのは現在の結果になってみれば到底曹丕に
云えるものでは無かった。


そして改めて三成は隣のその顔を眺める、
矢張り綺麗だ。どんな物差しで測っても美しいものは美しい。
( これ以上その顔を曝け出したら、虫の駆除も大変なのだよ )
三成は新入生が新しく寮に入ってきた際の注意事項を述べ、
更に言葉を追加した。

「えー、補足をしておくが、この男所帯の寮は部屋の壁が薄い」
「薄いので、一人でHするも、二人以上でするも、注意するように!」
三成の言葉に新入生が固まる。
なに、云わなければあとで面倒な事態になるのだから
釘を刺さねばなるまい。
そんな三成の様子に同じ二年にあがった寮生や、
三年生がにやにや眺めている。野次馬である。
「毎年一組や二組出てくるのだが、」
注意するようにーと云えば、紙屑と野次が飛んだ。
「お前らもだろー!寮長ー!!」
「この百合ップルが!」
「おまいら二人でくっついてどーする!」
「俺達に潤いを分けろー!」
「曹丕生徒会長を独占するなー!」
「三成寮長を独占するなー!」
「二人の横暴を許すなー!」
借金消せ―!など場に関係の無い野次まで飛ぶ始末である。
曹丕はその様子に表情を変えた様子も無く、
眼鏡のズレを指で直した。
三成はそんな寮生達に、ええい、黙れと叫ぶ。

「曹丕は俺のだ!誰にも渡さん!」
いいか!新入生も心得ておけよ!!
ギャース!と悲鳴のような絶叫が響く中、
三成は曹丕を連れて部屋へ戻った。


05:寮則追加事項
曹丕は俺の


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