身体を繋いだのは一年の夏の終わりだった。
クラブの試合も終え、いつもの部活に戻り、
あまりの暑さにくらくらしていた。
部活自体は室内であるものの、
外は蒸し暑い。
何と云っても、寮も暑かった。
クーラーはかろうじて付いているものの、
古いのかさしたる効き目も無く、
無いよりはマシというじわじわと蒸し暑い日で、
寮生で残っている生徒もまばらだった。

「退かないのか」
遠くで蝉の聲が聴こえる。
もうじき夕刻になって、蜩も啼き始めるのだろう、
そんな真夏の午後だ。
三成は曹丕の上に馬乗りになっていた。
曹丕を組み敷く形で上から眺めていた。
そこからぴくりとも動こうとしない三成に曹丕は
口端を上げた。
「退かないのか、三成」
何処か熱を帯びたような聲に三成は煽られる。
曹丕は、くく、と哂い、三成を見た。
薄い色の瞳は涼しげで三成をなんとも云い難い気持ちに
させる。薄く開いた唇は官能的で、三成は唾を飲み込んだ。
「動けないか」
一層笑みを深くして、曹丕は悪戯に三成を見た。
では、と曹丕は三成に手を伸ばす。
「触れてみるがいい」と云われて、其処で三成の
理性は崩壊した。

「・・・ッァ」
押し殺したような喘ぎがなんとも扇情的だった。
何よりも暴いた肢体は白い、夏だというのに
殆ど陽にも焼けず、白かった。
そうひ、と呟けば曹丕が三成の唇に舌を這わした。
それに煽られるように貪れば曹丕の身体がびくり、と揺れた。
「どうしていいのかわからんが」
痛いかもしれない、と告げれば曹丕は哂い
(喉を鳴らすような仕草だった)
「簡単なこと、」
と三成を導くように後孔に宛がわせた。
ただ、突きたて揺らせばいい、と云い放つ曹丕に
三成は居た堪れない気持ちになる。
( 恐らく )
( 曹丕は初めてでは無いのだ )
勿論三成も女相手にであったら初めてでは無い、
しかし相手は男だ、経験などある筈も無い。
けれども曹丕にはあるようだった。
その先を知っているようだった。
知っていて尚、三成を誘っているようだった。
しかし曹丕のその様子に、三成はまるでそれが
自棄になっているように見えて、一瞬手が止まる。
痛みがあれば尚いい、と云わんばかりの曹丕に、
三成は、ち、と舌を鳴らし、指に唾液を絡め、
導かれた後孔に慣らした。
「ふっ・・・ッ」
慣らさずともよい、と云う言葉を無視して
三成は入念に中を解してから自身を挿れた。
曹丕は感じるのか、痛みとも快感ともつかないような
か細い悲鳴を上げる。
その甘い聲に、熱い中に誘われるままに
三成は曹丕を揺らした。
ア、アア、と曹丕の聲が徐々に断続的になってくる。
たまらず、煽られるままに中に吐き出し、
そのまま曹丕を深く抉れば曹丕が絶頂を迎え、
搾りとられるように三成も二度三度達した。
はぁ、と息を吐いて曹丕を見れば、
曹丕は三成と目線を絡ませた。

「何故、触れた」
その言葉に三成は詰まる。
誘ったのは曹丕かもしれない、
しかし触れたのは三成だ。
曹丕は、くつくつと哂い、三成を見た。
薄い色の瞳は微かに揺れ、ともすれば泣いているようにも見えた。
恐らく、今この男に好きだの、愛しているなど告げても意味など
無いのだろう、自分だってこれが何なのかさえわからない、
ただ離れ難い衝動、この美しい男をを離せない情動なのだ。
三成はやや頭を振って、そして答えた。
「何、暑さの所為にしても悪くなかろう?」
そう云って手にしたペットボトルを投げれば、
曹丕は哂い、楽しそうに笑い、
三成の手に指を絡めた。
「そうか、暑さか、」
ならば仕方無いな、
形の良い唇が三成に近付いた。
「俺も暑さの所為にしておくさ」

それが三成と曹丕の最初であった。
今でこそ確かな信頼関係がある、今なら好きだの、愛しているなどと
云えば曹丕は、少し顔を顰め、気難しそうな顔をしてから、
顔を背け、微かに頷くのだろうと三成は思う。
しかしその時はそれが何であるかなど互いにわからなかった。
離れ難い衝動と融けるような熱さに呑まれたのだ。
一年前の夏だった。


07:夏に融ける


「・・・ッ」
曹丕の聲が漏れる。
その様子に三成は眼を細め、相手を見下ろした。
隣の、まさに三成と曹丕の左隣の部屋の寮生が
ぴったりと壁に張り付いて固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。
「おい、どうしたよ?」
同室の寮生が寄ってくるが、咄嗟に彼は、しっ、と指を口に当てた。
「待て!今いいとこなんだから黙れ!」
壁に精いっぱい耳を当てて、
曹丕と三成どちらの聲も聴き洩らすまいとする。
どちらも手を出せば恐ろしいことになるが、なに、
聲くらいならばちは当たるまい。
これは隣室の特権だ、とご満悦で聴き入っていたのだが、
隣から三成の聲が聴こえた。
「其処!煩いぞ!」
壁が薄いので怒鳴れば結構はっきり聴こえるものだ。
三成は隣の様子を察し、にやりと哂った。
「ちなみに今から○○○で○○○を×××するところだ!」
ぎゃー!と転げまわる隣室のものたちの悲鳴を捨ておき、
三成はせっせと手を動かした。
「いいのか?」
「なに、お前の聲など勿体なくて聴かせられるか」
三成はせっせと寝そべる曹丕の肩から腰をマッサージしている。
古書の読み過ぎで、曹丕の身体の至るところが凝っていた。
結局、真実は当人達のみの知るところである。

http://zain.moo.jp/3h/