曹丕は洗濯の類が全く出来なかった。
否、出来る出来ないというレヴェルでは無い、
これは「させない」というものであった。
優雅に本を広げる曹丕の前で三成がいそいそと
曹丕の洗濯物を洗濯機に詰め込み、
丁寧に洗剤と柔軟剤を量って洗濯機のスイッチを入れる。
その間に先に洗い終わっていた洗濯物をたたみ、
アイロンがけをする。
別にこれは曹丕が三成に頼んでやっているのでは無い、
三成が好きでやっているのだ。
三成でなくても、他の誰かがやるのであろうが、
曹丕の衣服、もとい下着に触れるなどもっての他!という
三成の主張により寮長様自らが洗っている次第である。
しかし、それに異論を唱えるでも、何か云うでも無く
曹丕は三成のするにまかせていた。
洗濯するという行為や何か細々したことを
人に任せて、自分はそれが出来ない、もしくはやったことが無い
ということに、憤りを覚えることもなく、人がして当然という
様が似合うのは曹丕が皇子様であるということに他ならない。
目の前で繰り広げられるその様子を眺めながら、寮生である彼は
溜息を吐きながら自分の洗濯物を洗う為に洗濯機のスイッチを押した。

彼はこの寮に於いて極めて普通の人間であった。
部屋はごく普通、ルームメイトもごく普通、家も一般家庭で
容姿も中、成績は中の上、趣味は熱帯魚の飼育、という
ごくごく一般的な人間である。
故に彼は、三成派、曹丕派のいざこざに巻き込まれるでも無く、
常に傍観者として、中立の立場にあった。
勿論学校や寮の皆が皆、曹丕派や三成派にわかれているのでは無い、
それは一部の過激派であって、大抵の生徒は普通に過ごしているものだ。
しかし目の前で偶然にも洗濯室で噂の二人に出くわした生徒は、
この際であるからじっくり二人の様子を観察することにした。
曹丕は優雅に用意された椅子に腰掛け、誰かが持ってきたサイドテーブルの
上に置かれた珈琲を啜り、本に目を通している。
三成はそんな曹丕と何事か会話をしながら、洗濯機の様子を時折
確認しながらアイロンをかけたシャツを綺麗にたたんでいた。
ちなみに二人とも服装はジャージであった。
しかしその様さえなんだかもう異世界である。
成る程、観察すれば観察するほど、曹丕と三成は綺麗な男であった。
ああ、美形っていうのはこういうのを云うんだな、と
納得できるオーラみたいなのがある。
きらきらしているのだ、一体何の冗談だと云いたいが
本当に綺麗だった。男なのになにこれもう有り得ない、
髪だって、柔らかそうだし、体つきの全体のバランスがいい、
手と足だって自分より全然長いのだろう。
これは、まあ、男に騒ぐ生徒の気持ちも多少わかる気もする。
入学と同時にあらゆる伝説を造り上げた二人であるが、
三成派、曹丕派の対立とは無縁で、非常に仲が良さそうだった。
一説によると、三成が曹丕にぞっこんだとか、曹丕が三成を・・・
という色んな憶測の交じった噂が飛び交っているが、
仲が良いことは確かなようだった。
曹丕は時折三成の云うことに微笑を浮かべ、(あの鉄仮面の氷の生徒会長がだ!)
三成はそんな曹丕の様子に安堵したように目を細める。(あの鬼の寮長がだ!)
二人の世界は非常に穏やかなようだった。
これも噂であるが、曹丕の家は有名な某超巨大企業で曹丕はその御曹司であるとか
(これは恐らく本当であると思う、何せ実際「曹グループ」が存在する)
三成の家は、関東圏で強い勢力を持つ、某極道関係だとか
(真偽のほどはわからないが、たまにやたらでかい顔に疵の入った怖い顔の男が
三成と話しているのを見かけたという話を聞いたことがある)
色んな噂を耳にするが、彼は思う、
ぶっちゃけそんなのどうでもいいんじゃないかと、
三成派、曹丕派、いろんな派閥があって、学内でも学外でも恐らく色んな思惑に
絡められているだろう二人だが、ふたりそれなりに幸せそうである。
この際男同士でデキているとか、仲の良すぎる二人だとか、
そんな野暮もどうでもいいと思う。

ふたり、幸せそうに過ごす
こんな穏やかな人たちが、日常に居てもいいと思うのだ。
穏やかに優しく微笑む時間が持てるならそれは屹度幸せに違いないのだから。


12:傍観者の視点

http://zain.moo.jp/3h/