三成は曹丕に出遭った時、生き方を決めた。
曹丕という人間の危うさに、その切ないような苦しい想いのままに
曹丕の為に生きると決めたのだ。
それが三成の全てであり、己の人生を曹丕に捧げると決めた
三成の生き方でもあった。

問題は山積みである。
問題だらけだと云っていい。
案の定曹丕の実家とは揉めたし、三成の実家とも多少揉めた。
三成の実家の件は左近が間に入ったこともあり、最終的に
母代わりであるおねね様に曹丕を会わせれば、
あんたもこんな綺麗な子捕まえれるだけの甲斐性があったんだねー、と
信じられないようなお言葉を賜り、最終的には上手く纏まった形になった。
逆に曹家とはまだまだ揉めそうである。
曹家の人間とは直接会ったことが無いが、曹丕の叔父である夏侯惇という男には
一度会った。
三成の顔を見るなり隻眼の顔を少し顰め、煙草を取り出しそれをゆっくり吸い、
灰をすっかり落としてから、一言だけ、「子桓を頼む」と云われた。
曹丕の話によると親族の中では二番目に実権があり、尚且つ唯一味方してくれそうな
人であると聴かされて些か緊張したものの、なんとかその面接には合格したようだった。
しかし、実際の曹家からは小難しい文書で、覆いに反対であるという有難くも
無いお言葉を頂き、今回は通っても今後はそうはいかないと、実力行使を仄めかされた
のも事実であった。

「まあひとまずは、難題はクリアしたということか」
三成は溜息を吐いてすっかり綺麗になった部屋を見る。
私物の一切は運び出され、三年という時を過ごしたこの部屋には
曹丕と三成が居たという痕跡はもう無かった。
元々部屋を綺麗に使っていた二人である。
尚のこと、何も無くなった部屋は自分たちが三年も使っていたとは
とても思えなかった。
「三成、迎えの車が来た」
「ああ、今行く」
三成はドアを締める。
外は早咲の桜が目に眩しい。
寮生との別れも朝に済まして、名残を惜しむような後輩達に笑いかけ、
今日三成と曹丕は、卒業式を終えて、この寮ともさよならをする。
長らく過ごしたこの寮に別れを告げ、二人は門をくぐり抜けた。

向かったのは新しい部屋、大学の近くに借りた部屋である。
互いに同じ大学に進学し、再び部屋をルームシェアするのだ。
(但し、家は曹家が用意した、これを了承しないと認められないのだそうだった。
ちなみに隣は世話係兼監視にと司馬懿という男が一週間も前に越してきているので
何とも云いようのない気分になるが致し方ない)
「三成」
どうした?と曹丕に振り返れば、曹丕は戸惑ったように、目を伏せた。
三成はそんな曹丕の頬に触れ、その手を握る。
「俺がそうしたいからしたのだ」
曹丕は自分と三成がどれほど難しい立場にあるか心得ている。
曹家の御曹司として、また、曹家の血の因果をよく理解している。
それに三成を巻き込んだことを悔いているようだった。
気負うな、と云えば、曹丕の瞳が揺れた。
淡い色の眼は美しい、
曹丕は出会った時から、そして今も、ずっと美しい、
その美しさに敬意を払うように、或いは心酔する愚かな恋の虜囚のように
三成はその手を取る。
「行こうか」

これから先、どんな困難があっても、
三成は曹丕と生きていく、
それが三成の全てであり、己の人生を曹丕に捧げると決めた
三成の生き方である。


13:いつも
いつまでも君と


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