05:ロウソクの火

ゆらゆらと揺れる灯が暗い部屋を照らした。
月も出ていない暗い夜だ。
ロウソクの灯だけが光源だった。
部屋はどこか乱れている。
灯りは部屋の隅々まで燈せなかったが、
燈すまでも無く、何が行われているのかは明白であった。
先程から敷布は乱れ、衣服は無残に床に散乱している。
吐かれる息遣いは荒く、煽情的であった。
「・・・っ」
びくり、と肩を揺らしたのは曹丕だ。
その様子を満足そうに見つめる男は、
曹丕の監視として妲己に仕わされた三成だ。
丁寧に曹丕の身体の隅々まで探る様子は、色事と云うよりは
何かを探っているように見える。
「・・・ぁ」
小さく聲が漏れた箇所を嬲るように指の腹と舌で擦れば、
曹丕は一層身体を慄わせた。
戦慄くように唇が噛み締められる。
その様子に三成は眼を細める。
本当はもっと聲を出して欲しい、
出来るならあらぬ痴態を魅せて三成を求めて欲しかった。
しかし曹丕の理性は固い。何時も三成の攻めを
眼を閉じて、或いは今のように唇を戦慄かせて堪える。
堪える様もそれはそれで煽情的であったので、
不満は無いが、矢張り求めて欲しいと思うのは
三成ばかりが曹丕を求めていると思いたくないからに他ならない。

曹丕は感情をあまり表に出す類の人間では無かった。
それは三成も同じだが、曹丕のそれはもっと種類の違うものだ。
ある種禁欲的な雰囲気すら感じる様は魅力的であったが、
時に解り難い、思わず三成が忠告するほどに他人に誤解され易い
態度を取りがちであった。
頑なに胸の内を見せぬ曹丕に惹かれ、曹丕の内面を暴こうと
口説き落して、漸く褥を共にすることが赦された。
「曹丕、力を抜け」
そう耳元で囁けば、びくり、と曹丕が揺れる。
首筋に舌を這わせながら下肢にまで指を伸ばせば
既に堅く勃ちあがっていた。
それを優しく掻けば曹丕は、堪えるように呻き、
脚が引き攣ったように慄えてから呆気なく吐き出した。
手に着いたそれを拭いながら、手にした香油を指に浸ける。
指から伝うほどたっぷり使い、曹丕の後孔に指を這わせた。
毎夜の行為からか身体だけは慣れた様子で三成の指を誘うように
呑みこんでいく。ゆっくりと、確実に曹丕の精神を追い詰めるように
三成は中を開いた。
「う、あ、、」
苦しげに曹丕が息を漏らす。
それを宥めるように口付けてから、勝手知ったる中を
隅々まで刺激する。
それだけで達したばかりの曹丕はたまらないと顔を歪めた。
「此処だろう?」
悪戯に中を刺激すれば、曹丕の身体はいよいよ跳ねる。
「っ、ぁ、いい加減に、、、っ」
言葉の続きは云わせない。
それでも濡れた眼と零れた唾液でどれほど
感じているのかは容易に知れた。
「溺れろ、曹丕、」
もっと俺に溺れて欲しいと懇願をすればやっと
曹丕は堪えながらも聲をあげる。
その様子が愛しくて堪らない。
自分で満たしてやりたい、
征服欲にも似た心地に誘われるままに
三成は充分に溶かした中へと己を宛がった。
「っ、あ、、ぁっ」
たまらず曹丕の聲が上がる。常より高い聲に
いつもより感じているのだと分かると三成は曹丕の
脚を抱え、引き腰になるしなやかな身体を引き寄せ、揺らした。
「う、あ、あぁ、っぁ」
断続的に漏れる聲はもう言葉にならない。
曹丕の中の締め付けがどんどん強くなる。
それに持っていかれそうになるのを「く、」と三成は堪える。
続けて押し入るように揺らせば、曹丕は再び達した。
びくびくと達する様は壮絶な色香がある。
長い髪が肢体に絡み、あ、あ、と口から吐息が漏れる様は
いっそ狙ってるんじゃないかと思うほど蠱惑的で、
達した曹丕に締め付けられるも三成は耐える。
曹丕は力無くびくびくと身体を慄えさせるが、
それを待っていたと云わんばかりに三成は先ほどの
優しさと打って替って激しく揺らした。
「ま、、っ、待っ、、う、ぁアッ」
力の抜けた曹丕の身体を容易く引き寄せ、
一層揺さ振りを激しくすれば曹丕が堪え切れず悲鳴を上げた。
ア、ア、と喘ぎを漏らす口からは唾液が零れ、
前後不覚の状態に陥っているらしい。
三成は曹丕の中を探り、最も嫌がる場所を深く突いた。
「う、あぁ、ぁ、アアッ、、、ッ」
「く、、っ」
酷い痙攣と共に曹丕の締め付けが一層きつくなる。
曹丕が脚をあがくように動かしてからすぐに、
その腹に熱いものが吐き出された。
それに引き絞られるように三成は曹丕の中で達した。
ばたり、と曹丕に倒れこむ三成を半ば放心した状態で
曹丕の胸が受け止め、互いに息を整える。
擦れた聲で曹丕が三成を責めた。
「待てと云うに・・・」
その様子は常よりも所在なさげで何とも可愛い。
「そう簡単に待てるものか」
三成は曹丕の頬を指で撫でながら軽く笑みを漏らした。
曹丕は顔を横に向け、小さく呟く、
「だが、悪くなかった」
その言葉に一瞬、三成が茫然とするが、
次の瞬間、意地の悪い笑みを浮かべて、再び曹丕に
覆い被さった。

「懲りない男だ」
「何、お前にだけだ」
どちらのものかわからぬ口付けを交わし、
再びその身体に指を絡め、互いを求める。
好きだと、そんな言葉一つ上手く伝えられぬ曹丕が
愛しくて仕方ない。
淫らに身体を開くのに、その癖縋りつく手だけは臆病だ。
その手を取り、いやらしく指を絡めれば、切なげに
曹丕の眼が揺れた。
そんな曹丕を底から自分で満たしてやりたい、
逃げながらも求める、何とも滑稽な愛情表現に
三成は笑みを漏らし、激しく口付けた。
縛りたい、縛りつけてやりたい、
酷い欲望に眩暈すら覚えて、三成は曹丕を貪る。
揺ら揺らと酔いしれるように灯の影がひとつ揺れた。

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