07:手紙
※懿→丕←三

遠方から文が届いたらしい。
曹丕と厭が応にも執務室が同じになる三成は
この処の付き合いでこの気難しい麗人の所作や癖、
何を求めているかなどが簡単に汲めるようになっていた。

曹丕は文をざっと検めてから、
もう一度読み直した。
ちらりと見れば、神経質そうな字で何事か
報告めいたことが書かれているようだ。
それだけで三成はそれが誰からのものであるのか
うっすら悟った。

司馬懿だろう。
曹丕の腹心にして恐らく今の三成と同じ位置に居たもの、
遭ったことは無いが、史に聴く限りあまりいい感情は持てない。
しかし曹丕は史実では司馬懿を重用したと聞く、
この腹心との遣り取りを見れば、多少それが悟られるが、
どうもその中に何かしらの思惑が見えてならなかった。
曹丕は認められた文を記憶するように確認してから
それを麗人らしく、優雅な所作で、丁寧に元の状態に
戻して、灯りの火に投げて焼いた。

「気になるのか?」
燃える文を見つめながら曹丕が三成に問うた。
「多少はな」
曹丕の監視役などただの肩書きに過ぎない、
三成の興味が曹丕本人に向いている今となっては、
曹丕を裏切る、裏切らないという次元では既に無い。
まるで己を見ているような、否、それよりも重たいものに
捲かれている曹丕を見ていると三成はどうしても手を
差し出したくなる。
この手を取らないと解っていても掴んで、
曹丕が心の底から安堵できる場所まで引き上げてやりたい。
既に充分過ぎるほど三成は傍らの存在に魅かれていた。

「教えてはやらぬ」
だが、と曹丕は付け足した。
直に解る、と。
その言葉に三成は唇を噛みたい気持ちになる。
それとも今すぐ、その減らず口を塞いでやろうか、
心のままに、三成は曹丕の手を掴みそのまま組み敷いた。
曹丕は愉しそうに喉を鳴らす。
それが気紛れな猫のようで、露わになった曹丕の白い喉に
三成の眼は釘付けになった。
「腹に何か飼っている腹心がそんなにいいのか?」
つい、怒気を孕んだ言葉になるのは、仕方無い、
曹丕は更に三成を煽るように口端を歪めた。
「あやつの腹は黒いが、私にも思惑はあるのでな」
三成の嫉妬を心地良さそうに受け止め、三成をあやすように
曹丕はその首に腕を絡めた。
「嫉妬か、愛い奴だな」
「ぬかせ」
三成は曹丕に誘われるままに首筋に口付けた。
そして思う。

恐らく曹丕は腹心の男とも通じているのだ。
その男ともこのような姦淫を結んでいるのかと思うと
胸の内は穏やかでは無い。
しかし、それこそが曹丕の陰の魅力でもある。
この類稀な麗人は、人を操るのに長けている。
それが腹立たしくもあり憎らしいが、たまに見せる、素直な懇願に、
三成は愛しさを禁じえない。
やめよう、止めようと思うのに、目の前の身体を貪って仕舞う。
「この淫乱」
恨み言のように漏らせば、心地良さそうに曹丕は
三成を見つめ、そして笑った。

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