09:留守番電話
※パラレル

待ち合わせの時間より早く着いたので
その旨を知らせようと曹丕は携帯電話を取り出した。
知った相手の番号を呼び出し、コールしようとしたところで
その手を止めた。
不意に、思い立って、留守番電話の情報を見る。

( 14件 )
留守番電話は、聴けば大抵直ぐに相手に折り返す、
溜めているのは別の理由だ。
内容を聴いていないわけでは無い、
勿論全て聴いている。
しかし曹丕はその留守番電話を溜めている。
一件一件再生するにまかせて、そのよく通る耳に馴染んだ
聲を聴いた。

三成だ。
曹丕は留守番電話に入った三成の聲をどうしても
消去し難く、こうして時折聴くことがあった。
勿論こんなこと本人に云えばどう揶揄されるかわかったものでは無い、
だからこれは曹丕の密やかな愉しみであった。
こうして待っている時であったり、深夜眠れない時であったり、
そんな時に曹丕は三成の聲を聴く。
内容は、少し遅れる、何処そこへ行かないか、などといった誘いでも
あったり様々だった。メールも多かったが、聲が直接残る
留守番電話を曹丕は気に入っている。
三成の静かで優しい声色は曹丕だけのものだった。
その聲に安堵を覚え、そっと目を閉じる。

「曹丕!」
は、と顔を上げれば三成だ。
「すまん、電話か?」
待ち合わせ場所に到着した三成は、時間に正確だ。
まだ時間の五分前である。
曹丕は慌てて、電話を切った。
「いいのか?」
「ああ、留守番電話だ」
そうか、と三成が云う、曹丕は行こうと歩きだす三成の背を追った。
そして色んな話をする三成の聲に耳を傾ける。

「で、誰だったんだ?」
留守番電話の相手のことだろう、
曹丕は微笑を浮かべて、三成を見つめた。
「秘密だ」
そう云えば、む、と三成が顔を顰めた。
存外に独占欲の強い三成だ。
こうなれば意地になる。
だから曹丕は三成が口を開く前に悪戯に笑って見せた。
「嘘だ、仲達からだ」
そう云えば、三成は、なんだあいつか、と別の意味で顔を顰める。
「今日は夕飯までに帰れと」
嘘の上塗りだ、曹丕は愉しげに口に乗せた。
「なんだと?そんなもの聴かなかったことにしろ」
ほら、と三成が手を差し出す。
その手に引かれるままに曹丕はゆっくりと微笑んだ。

( 本当はお前の聲を聴いていたのだ )
( だが )
( まだ秘密だ )

聲は大事に曹丕の携帯電話に静かに仕舞われている。

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