12:近道
※パラレル/小学生幼馴染

「近道を探そうか」
そう云ったのは曹丕だ。
ふ、とした時に曹丕はこういったことを云う。
三成はその言葉にただ頷いた。

曹丕と三成は幼馴染だ。
幼い頃から何かと顔を合わせることが多かった。
曹丕の家は難しい、三成ですら説明が難しいほど
問題の多い家だった。
だから曹丕は時折こういったことを三成に云う。
三成に云うということは曹丕の事情はそれほど
困窮しているということだった。
一種の合図だ。
曹丕は家に帰りたくないのだと、経験から悟る。
曹丕は黙って三成の前を歩く、近道を探すというわりに
その足取りは重い。
三成はそんな曹丕の背を見つめ後を追った。

暫く歩いてから曹丕がぽつりと漏らした。
「中学はたぶん別のところだと思う」
三成と曹丕はエスカレーター式の私立に通っている。
だが曹丕は中学を替えると云う。
家の事情なのだろう。
三成と曹丕は家も近く、学校も同じで、
幼い頃からずっと一緒だった。
その曹丕と学校が違うのだと云う、
三成は驚いた。
「何故だ」
「父上が決めた」
曹丕の家は三成の家よりずっと資産家だ。
その分家庭がややこしい、その曹丕が今の学校でなくなるという
ことは曹丕はより遠い存在になるということだ。
「兄上が死んだことと関係があるのか」
「俺が跡目なのだと」
曹丕は興味がなさそうに呟いた。
「だから三成とは卒業までしか一緒にいられない」
曹丕はそれきり黙って夕日を見つめた。
三成はたまらなくなって曹丕の腕を掴む。
「遊びには」
「わからない、たまになら」
曹丕には本当にわからないのだろう、
自分を取り巻く環境がどんどん変わっていく、
この幼馴染とも引き離されるかもしれないと恐れている。
そんな曹丕の頬を三成は両手で包んだ。
「多分、今よりずっと忙しくなる」
だから、無理かもしれないと、言葉の語尾は小さくて聞き取れない。
三成は意気消沈した様子の曹丕に胸が痛む。

「莫迦を云え、俺はお前の幼馴染だ、会って駄目なわけあるか」
「それはそうだが・・・」
しかし、曹丕の教育係として配された男にも毛嫌いされているのも
事実だ、このままではなかなか会うことも許されなくなるだろう。
「ならば、こうしよう、」
三成は真剣に曹丕を見た。
曹丕は黙って三成の言葉を待つ。
「中学が駄目でも、高校は同じにしよう、俺は必ずお前と同じ場所に立つ」
今にも涙が零れそうな曹丕の青い眼が綺麗だ。
零れた涙を舌で掬いながら三成は曹丕に誓った。
「ああ、わかった、約束だ」
約束だ、三成、と曹丕と三成は互いに指きりをした。
今生の別れでもあるまいに、しかし子供には永遠に思えるものだ。
別れ難く、夜になってもその場から寄り添ったまま動けず、
結局辺りを捜し回っていた、左近と夏侯惇にこってり絞られたのは
云うまでも無い。
いっそのこと早く大人になれればいいのに、と思うけれど、
大人になる近道は曹丕にも三成にもまだわからなかった。

帰り道、手を繋いで歩いた、ふたりの話。

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