15:似た者同士

合わせ鏡を見ているような気持ちになる。
まるで似ていないのに、内面が恐ろしく似ているのだ。
酷く美しい容姿を持つくせ、内面がなんとも屈折している。
相手を見ているとまるで自分のような錯覚を覚える、
そして思うのだ、ああ、周りは、左近は自分に進言するとき
このような気持ちだったのかと、
そして自分も云われたことと同じことを口煩く云って
仕舞うのは仕方の無いことだった。
似て異なる男の名は曹丕と云った。

「聴いているのか」
「聴こえている」
ずかずかと曹丕の後を追うのは三成だ。
半ば云い合いのような様相で、廊下を競歩に近い足取りで
歩いた。
「では・・・!」
三成が次の言葉を云おうと口を開いた瞬間曹丕の歩みが止まる。
それにぶつかる形で自分より少し高い曹丕の背に身体を埋めた。
「何度も繰り返さずともわかる、私は阿呆では無い」
曹丕が憎らしい口を叩くので、
三成もやけになる。その忌々しい口を今直ぐ塞いでやりたい。
しかし、此処は外廊下だ。流石にそれは憚られる。
あとで覚えておけよと内心毒づいてから、三成は言葉を続けた。
「ならば、もう少し態度を柔らかくしろ、あれでは兵に
勝手に死ねと云っているようなものだ。汲んでやれ」
云われて曹丕は漸く三成に振りかえった。
「わかった、では、あとで通達を出す、
酒でも振舞えば良いのだろう」
息を吐いて曹丕が云う様に漸く三成も溜飲を下げた。
大抵の場合三成が折れることが多いが、
こういった場面では必ず曹丕が折れる。
そうして折れた後は、そらお前の云う通りやってみせたろう、と
拗ねるのだ。
そんな曹丕の様子に三成は可笑しくなる。
全く、手のかかる、
しかし可愛い、
まさかこの自分がこれほど他人に世話を焼くなど考えてもみたことが無かった。
曹丕相手ではこうなるかと半ば得心しながらも
三成はこの半身のような男を見る。
この偶然ばかりは妲己に、否、遠呂智に感謝せねばなるまい。
しかし出逢いは罪だ。
これでは別れ難い、このような存在、手放せる筈が無い。

拗ねた様子で曹丕が歩きを再開した。
さて、執務室はもうすぐだ。
どうして機嫌を取ったものか、
曹丕はきっと三成を求めるだろう。
三成はそれを優しく受け止めて、あやす様に口付ける。
お前が愛しいのだと囁いて指を絡め、
存分に甘やかしてやれば彼の麗人の機嫌も治るであろう。
その様子を思い浮かべ、三成は微笑を浮かべて後に続いた。

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