27:ノスタルジック
※OROCHI→パラレル(多元宇宙)

あれからどれ程の時間が立ったのか
三成にはわからなかった。
急な地鳴りがしたかと思うと、
あ、と思った時には宙に身体が浮いていた。
咄嗟に戦場であった筈の大地を見れば、飛ばされる地の間に、
見知った姿を見つけた。
宙をもがくように手を伸ばし、
手が引きちぎれるかというほど限界まで伸ばし、
濃紺の外套の端に引っかかった指に精一杯の力を込めて、
相手の腕を引き寄せた。
「曹丕、、!」

其処が何処なのか、三成にも曹丕にもわからない。
ただ大地と何処までも透き通る薄い色の空があるだけの
荒野であった。
気付いた時に互いに遠呂智の力でまた別の
場所へでも飛ばされた、程度にしか思っていなかった。
誰もいない荒野に二人、漸く気付いた様子の曹丕を確認してから
二人で随分歩いた。
歩けど歩けど、荒野は終わらない。
水辺があることに安心した。
澄んだ水だったので飲めるようだった。
近くに自生する低い高さの樹木から何かの実らしいものが
あって、程良い香りに口に含めば、梨に近い味がした。
時折、獣の聲がするが姿を見たことは無い、
そのまま歩き、時折休み(此処には夜が無いようだった)
誰かを、或いは建物のひとつでもと探しても
何一つ痕跡も得られなかった。

「どうやらこの世界は私達が居た世界とは違うようだ」
「そのようだな」
轟音に何事かと奔れば、其処には見たことも無い巨大な生き物がいる。
「龍か・・・」
爬虫類の巨大なそれは、この世界が三成達の知っている世界でも
遠呂智が引き寄せた世界でも無いことを示している。
「神仙の世界にでも迷いこんだのやもしれぬ」
「ならば神仙とやらに戻り方の一つも訊ければよいが」
牙を向けてきた巨大な龍に三成が己の扇を振い風を起こす、
龍が身を逸らした瞬間に、曹丕がその頭に向かって剣を突き立てた。
咆哮と共に龍が倒れる、絶命させる為に、更に三成と曹丕が頭部に
刃を向けた。ざくりと斬れば、紫とも緑ともつかぬ血が噴き出した。

当て所無く、彷徨う、
傍らの曹丕を見れば、焦りという期間は互いに疾うに過ぎたらしい、
何処か諦めた様子で、一種達観にも似た心境で、
今日の塒にと確保した洞窟の先に立っていた。
こうしているとまるで曹丕と世界中にふたりきりのような気がする。
これが神仙の世界というのも多少は頷けた。
あまり腹が減らないのだ、歩けど歩けど、さほど疲れもしない、
或いはこれはもう終わったことで、自分たちは疾うに死んでいて
冥府への入り口へと彷徨っているのやもしれぬ。
それとも此処はもう既に冥府で、巡礼者のようにただ歩き続ける
役目を負っているのかもしれない。
これまで幾度となく考えていた可能性のことを想い三成は、
絶望的な気持ちと共に奇妙な安堵に包まれていた。

( この世界にお前とふたり )
二人きりで流されて、
( 噫、それも )
二人ならそれも、否、それで
( 構わない )
いつからか休む時に抱き締め合うようになった、
次に目覚めてもこの温もりがこの腕にあるようにと
離すまいと互いを抱きしめる。
一人になったら屹度狂って仕舞うのだろうか、
或いは失くしたお前を捜し、亡霊のように彷徨うのか、
その絶望を想い、抱き締める力を強くする。
痛い、と呟く曹丕の髪に鼻を埋めて、三成は息を吐いた。

懐かしいものがある、
置いてきたものが沢山ある、
友も仕えるべき主君も置いて、こんな処まで流されて仕舞った。
傍らの男もそうだ、治めるべき国も歴史も、民も、臣下も全て
置いてきて仕舞った。
此処に在るのは郷愁と果たせなかった約束、願い、
互いに途方も無く遠くまで流されて仕舞って、
それが叶うのかどうかさえもうわからない、
ただ、想うのだ、
戻れたとしても、いつか元の場所へ戻り、
或いはこのまま、戻れないまま放浪する運命にあっても
思い出すのはこの腕の温もりなのだと確信する。
温もり、匂い、その言の葉さえも、
お前を永遠に覚えていられるのならば、
この狂った不毛の大地に放浪する運命でも構わない。

「どちらが欠けても俺は再びお前に逢うと誓おう」

それが憎しみでも厭わない、
次に再び遭うのがお前であれば、
どんなに悲愴な運命でも、お前に出逢えるのなら、
「俺はそれで構わない」
腕の温もりはひくりと動き、三成の腕の中で身じろいだ。

※OROCHIの世界からまた別の場所へ飛ばされたという
設定であります。

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