10:初めてだからこそ大胆に

「私はお前が好かぬ」
引き寄せられてこの上なく近い位置に
曹丕の顔がある。
何の気紛れか、それとも熱に浮かされているのか、
常には無い行動に三成は軽く動転していた。
「身勝手で、自分の価値観を私に押し付ける
いっそ傲慢と云ってもいい」
「俺を厭うているのは知っている」
嫌っているのだ、当然だ、
あんなことをしたのだから、
しかし三成は殺されることなく
今此処に居る。
ならば曹丕という男の為に生きて死ぬ、
そう決めたのは三成だ。
どれほど厭われようともどれほど蔑まれようとも
それでいいとすら思ったのは確かだ。
だのに今曹丕は三成の唇を食みながら
熱い腕を絡める。
「お前は熱に浮かされている、早く寝ろ」
身体を押しのければ熱い手が三成の手に触れた。
「浮かされているのなら尚のこと、熱い、
貴様が鎮めろ」
「怪我人相手に出来るわけなかろう」
傷が開いたらどうする、と云えば曹丕は
さもありなんと哂う。

「勝手な男だ、私の身体を暴き、
胸の内を暴き、傍若無人に振舞って
そして勝手に心配をして勝手に助ける、
あまつさえ私には不要のものを押し付ける」
ぐい、と引っ張られ三成は寝台に引き込まれる。
気付けば曹丕に跨られる形で組み伏されていた。
「おい、」
乱暴に扱うわけにもいかない。
第一こんな状態を兵に見られてはどう説明する
つもりか、焦りはそのまま曹丕に伝わったが
曹丕は笑みを深くしただけだった。
「あれほど囁いておきながら、今此処で寄越せと云えば
お前は拒む」
「何のはなしだ・・・」
曹丕は三成の陣羽織を取り去り護り刀を床に投げ
脱がしていく。
「私の為に生きると、私の傍を離れぬと散々囁いた
貴様の下らぬ愛などに」
驚き見上げた曹丕の顔は笑っているのに泣きそうだった。
「私が絆されるなど」
この上無い屈辱だ、と三成を組敷く男は何よりも
いとおしい。
「本当に下らない」
口付けは深く深く三成を煽った。

身体を弄れば曹丕が慄える。
傷口が開きはしないかと心配になるが、
滾る欲望はどうにもならない。
なんとかして曹丕だけでも鎮めようとしたが
意地でも三成を求めようというのか
曹丕が離さなかった。
観念してゆっくり中を撫ぜると
ぶるりと曹丕が身体を揺らす。
三成に跨る形で曹丕が身体を沈める。
「・・・っ」
大きな聲など漏らそうものなら
兵が押し入ってくるだろう。
主君の一大事である。
しかし中を暴かれてはもっと別な意味で
主君の一大事になるので何としても聲は
抑えねばならなかった。
「ぅ、ぁ、、っ」
滴り落ちる汗が三成にかかる、
それを舐めながら三成は曹丕の腰に手を置いた。
ぐぐ、と深く沈めてから、煽られ擦れた聲で
曹丕に云う。
「聲を漏らすなよ」
そう云い放ち、弾かれたように曹丕の中を
下から激しく揺すればびくびくと背がしなった。
髪の乱れる様がうつくしい、
聲が聴けないのは惜しいがそうも云ってはいられない。
今はとにかく早く曹丕をいかせて、
寝かせなければならない。
このままでは明日にはもっと悪化するかもしれない。
曹丕の負担は減らしたかった。
「っ・・・くぅ・・・っ」
揺さ振れば揺さ振るほど限界が近いのか
曹丕が堪える。それさえも赦さないと云わんばかりに
激しくすればついに、
びくん、びくん、と曹丕が跳ねて
濃厚なそれが吐き出される。
体内の酷い収縮が三成自身を締め付けて
達する瞬間に三成が曹丕の身体を押し上げた。
びゅる、と三成のものが放物線を描きながら床に
吐き出される。
あとは、くた、となった曹丕を支え
寝台に横たえた。

「全く、信じられん奴だ」
呆れたように身形を整えながら三成が云う。
曹丕はもう精も根も尽きたと云った様子で
だらりとだらしなく寝台から腕を垂らしていた。
「貴様の方が余程信じられぬ」
「下らぬことばかり私に吹き込んで、好きだの、なんだの、
勝手に押しつけて、酷い男だ」
三成は曹丕の髪を撫でる。
誰かが来る前に曹丕の身形も整えなければならない。
「何もかもお前の所為だ、私が要らぬものをお前は
拾ってくる」
「私が凍らせたものをお前は私に見せつける」
欝血した布を取り換え、衣服を正し帯を締める。
まるで侍従のようだ。
「それでも、俺はお前を離しては生きてはいけぬ」
三成の言葉に曹丕は弾かれたように笑った。
くくく、と喉を鳴らす。
嘲笑りかと眉を顰めた三成を曹丕は真っ直ぐ見た。
「下らぬ、全く下らないものだ、」
何が楽しいのか肩を慄わせ、曹丕は笑う。
そして三成を見据えただ一言、恐らく
この男が一生云わないであろう言葉を放った。


「だがお前のその澱みのない想いこそまた私を惹きつけるのだろう」


柔らかく、温かく氷解していく
世界があるとするなら、
今此処が、全ての始まりなのだ。

/prev

http://zain.moo.jp/3h/