※三丕パラレル学生ものですのでご注意下さい。
元ネタはこちらのお題より→ [ 18:メリケンサック ]


その男の話題を耳にしたのはこれで何度目か、
さほど多くも無いが、無視することも出来ない。
結局のところ己に関係無いものとして
処理するしかない、しかし目端ではその男についての
動向を気にせねばならない、厄介と云えば厄介な
相手であった。

三成がその高校に入学したのは単に己の学力を
知る為であり、都内の公立で最も偏差値が高かったから
の一点に尽きる。
養家に報いる為にも『これから』の為にも
勉学は疎かに出来なかった。
本家の家業は由緒正しきとまではいかないが
それなりの勢力を持つ、極道の傘下である。
勿論その為自動的に三成の将来は確定しており、
養子である三成には選べる筈も無い、
故にこれからの御時世、頭脳は大事である、というのが
三成の持論であった。
未だ組の仕事云々は流石に無いが、
豊臣組の事実上嫡男である養子がこの高校に入ったというのは
瞬く間に伝わり新学期早々、三成は級友達から遠巻きにされる
非常に迷惑な扱いを受けている。
( 珍獣でもあるまいに )
まさにそれである。パンダならまだ可愛いが、自分は虎か、
ライオンか、そういった恐れも含まれた腫れ物に触るような扱いであった。
非常に遺憾であり迷惑極まりないが、これもある程度想定していたことである。
大抵の場合、極道なら極道らしく『それなりの学校』に行くものだが、
三成は正式な試験と手続きでこの学校に入学した。
嘘偽り無い実力である。
試験の成績でトップを納めるつもりが、僅差で首席代表としての
入学式での誓詞の読み上げは叶わなかった。
正直自分より出来る相手がいないと思っていただけに意外だった。

( 曹子桓 )
曹丕、と呼ばれる男の所為である。
この男も三成と同じ意味で浮いている。
クラスは別れたので詳細を知ることは叶わないが、
それでも噂は絶えない。
曹丕は三成とは敵対関係にある、中華系の組織、魏の
嫡子だ。抗争で兄を失くしていると聴くので事実上
魏の跡取りである。
その曹丕までもがこの学校に居るというのが三成にとって
予想外のことだった。
このような公立高校を受けるもの好きなど三成以外には
いないと思っていたがどうも違ったようだ。
( 俺以外にもの好きがひとり・・・ )
入学式の時に壇上で名を呼ばれた男の顔を思い出す。
遠目ではっきりとは見えなかった。
しかし不意に振り返った男の顔は
はっとするほど美しかった。


擦れ違った時にはその腕を掴んでいた。
「何用か」
男は振り返らない。
三成はそのまま男を引き寄せる。
「俺のことを知っているか」
チャイムはすでに鳴っている。
廊下には誰もいなかった。
三成は曹丕の頬に鼻先を近づける。
微かに花の香がした。
「知らぬな」
フン、と鼻を鳴らし、曹丕は答える。
「お前など知らぬ」
挑発的な態度に三成は笑みを浮かべ
その長い髪を掴み後ろに引っ張った。
「では覚えろ、曹子桓、俺は石田三成だ」
曹丕は薄く哂い、豊臣の子飼の犬に興味は無いと
背を向けた。

「・・・知っているでは無いか」
三成はそのまま授業を受ける気も失せて
結局屋上で一服燻らせている。
長い髪、冷たい眼、全てを見下した態度、
それを崩せたら、或いはあの鮮烈なまでの眼を
自分だけに向けさせることが出来たら、
そう思うと身体がぞくりとした。
( 曹子桓 )
子桓、と口の中でその名を転がす、
その名は何処か甘い、酷く甘いように感じられた。
三成は溜息をひとつ吐き、そのまま
屋上に座り込む。
「どうかしている・・・」
あの男に出遭ってから、なにもかも、
「どうかしてる」
冷たい床が心地良く三成はそのまま
ぼんやりと灰色の空を見上げた。


「不味いですね」
何が不味いとも云わないが
呟かれた言葉に三成は僅かに顔を上げた。
「何が不味いと」
「魏ですよ」
ああ、そのことか、と三成はそのまま
ソファに身を沈めた。
「俺とて予想外だ。まさか曹家の跡取りが同じ学校だなんて
聴いていない」
三成がポケットから煙草のケースを取り出すと
無言で左近が火を点けた。
それから頂きますと頭を下げて自分のにも火を点ける。
二人で口を開くことも無く、そのまま
ゆっくり一服してから、
三成はおもむろに立ちあがり、煙草の火を灰皿で押しつぶした。
「仕方あるまい、敵対組織とはいえ向こうも莫迦ではなかろう、
三年間無難に接触を避けて生活するしかないな」
それが三成の導きだした最前の策だ。
無論向こうもそう思っているだろう、
組のことと学校は別である。
そのくらいの分別はあるつもりだ。
だから、このぐらいなんでもない。

だからこそ、これは

01:なんでもない
始まり


だったのだ。

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