その電話を受けた直後から左近は揉み消しに駆け摺り周った。
予想外の人間が混じっているから余計ややこしい。
必死になって揉み消している左近を他所に
三成は曹丕を連れて路地を歩いていた。

「酷い形だ」
笑みを造ろうとするが上手くいかない。
口端は切れているし頬は腫れている。
曹丕も似たり寄ったりの酷い顔で、
綺麗な顔が台無しだと三成は笑った。
すっかり埃っぽくなった制服を叩いて
吸っていた煙草を棄てる。
「近くに組の息のかかったホテルがある、
シャワーでも浴びるか?」
どうせその姿では帰れまいと云えば
曹丕は頷き三成と二人して
ホテルに足を向けた。
ラブホテルである。

勝手知ったる部屋を開けて
上着を投げだし、簡易冷蔵庫からビールを取り出し
曹丕に投げた。
曹丕はそれを受け取りプルタブを捻る。
ビールを口に運んで少ししてから盛大に顔を歪めた。
「染みる・・・」
「口の中を切ったからな」
痛いに決まっている。
三成も痛みに顔を顰めながらビールを喉に流し込んだ。
不意に可笑しくなって笑って仕舞う。
「お前がこんなに好戦的なんて思わなかった」
「心外だな、これでも曹家の者だ」
成る程確かにそうらしい。
曹家の者は激しいと聞くが曹丕も例に洩れずだ。
それが敵ならば恐ろしいが味方なら心強いことこの上無い。

「シャワーを浴びて来い」
曹丕を促し、三成はベッドに座る。
シャツで身体の血を拭い、やたらと染みるビールを
飲み干した。
ぼんやり煙草を燻らせているとシャワーを終えた曹丕が
タオルを手に出てきた。
添え付けのバスローブを纏っている。
滴る水滴がなんとも云えない雰囲気を醸し出していた。
しかし顔を上げれば矢張り酷いものである。
三成は吹き出しそうになり曹丕の頬に手を添える。
痛いのか曹丕は顔を顰めた。
「見せてみろ」
目元も紫色で目も当てられない。
「酷い顔だ」
と笑えば曹丕もお前こそと三成の腫れた頬を
撫ぞる。その指先の思わぬ繊細さに
思わず三成は曹丕に口付けた。
最初に口付けた時よりももっと深い、
求めるままに曹丕の口内をなぞれば
血の味がする。
曹丕の血の味なのか、三成の血の味なのか、
或いは二人の血の味なのかもしれない。
唾液が伝うほどに口付けてから
名残惜しむように離せば互いに息を吐いた。

「厭じゃないのか?」
三成の問いに曹丕は眼を閉じる。
厭なら此処に居はしない。
「厭ではない、お前は」
そっと三成を引き寄せる。
三成が最初に見た時、曹丕に惹かれたように
或いは自分も、と曹丕は自嘲気味に哂った。
「お前は心地いい」
傾れ込むようにベッドに転がり
若さと高揚のままに互いを求める。
身体中は怪我の痛みに悲鳴を上げているのに
どうにも止まらない。
いっそそれが気持ちよくなるほどに
酷い快感だった。
曹丕の身体を貪り、長い髪に指を通し
隅々まで弄れば曹丕が慄える。
それを逃さぬように三成は逸る心を抑えながら
曹丕を開いた。
部屋にあったローションとゴムを取り出して
ゆっくり曹丕の中を暴く、
お前が上か、とややあって不満を述べる聲が
聴こえたが、それを無視して指を進めた。
「まあいい」
今は、と曹丕は笑い、
三成を受け入れる。
痛い筈だ。三成も痛い。
痛い筈なのにそれが心地いい、
痛みの箍が外れたのかもしれない。
この享楽に酔い痴れるように行為に没頭した。
「う、あっ、アッ、ッ、、」
聲を堪えていた曹丕が悲鳴を上げる。
揺さ振りを激しくすればもう耐えられないと云わん
ばかりに曹丕が首を振った。
それを奪うように三成は口付けながら
曹丕を追いたてる。
「んんっ、、、ッ」
言葉にならない悲鳴があがる。
限界に張りつめた曹丕が悲鳴を三成に
呑まれたままびくびくと達したのを感じ、
曹丕の中の酷い収縮に絞り取られるように
三成は昂りを放った。
それから二度三度と交わり、
一瞬の眠りの後、三成は脱ぎ捨てた制服のポケットから
煙草を取り出した。
二口吸ってから目を閉じていた曹丕が薄ら
三成を見上げる。
手にした煙草を曹丕に差し出してから
「好きだ」
と曹丕に告げた。
曹丕はゆっくり差し出された煙草を受取り一口吸う。
一瞬の沈黙の後に三成は見る。
今迄で一番優しい顔で、曹丕は破顔した。



「そういうことは最初に云うものだ」



08:終幕、後に告白

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