あっと云う間に夏休みも終わり、
学生としての本分、学校が始まった。
皆それぞれに夏を謳歌したらしい、
久しぶりに会った級友達は互いの近況を語ったり
旅行先の土産を渡したりと忙しい。
しかしその中でも生徒はおろか、教師まで
驚かせたのは例にもよって学年首席と次席の二人であった。

敵対組織の跡取りと養子、その二人が
朝から仲良く何事か語り合っているのだ。
夏休みのことなど皆知る由も無いから
まさかの展開である。
或る者は唖然とし、或る者は絵になると悶え、
或る者は戦々恐々とする始末である。
思わず教頭が曹丕に「組が合併でもされたんですか?」
と問うて仕舞い(何故か敬語である)
三成が「会社じゃないんだから・・・」とツッコんだ
のは後々の語り草であった。

二人がこうして公につるむことに決めたのには
訳がある。
曹丕は『友人』として三成が気に入っていた。
容姿も頭脳も申し分無い。
ただ、時々三成の率直な素直さが
曹丕には眩しかった、だが嫌いでは無い。
同じレヴェルで会話できる人間など稀少であるから
手放し難かった。
それは三成も同じである。
曹丕という存在を三成はどうしても護りたくなる。
それが友人としてなのか、何なのか
未だ測りかねていたが、三成にとっても
曹丕は手放せない存在だった。
互いの家には釘を刺されている。
三成の家でもあまり良い顔はされなかった。
曹家なら尚のこと。
事が事なので、目付け役の司馬懿が
自分の元でこの情報を止めているらしかった。
上に知れるのは時間の問題であったが、三成と縁を切るか、
転校を示唆された言葉に拒否を示したらしい。
「いつもは聴いて下さるのに、ことこの件に関しては
聴いて下さらない」と司馬懿が恨み節を述べたらしいが
曹丕は一貫した態度を貫いていた。
一方三成は既に今朝登校前に釘を刺された。
「ご学友なのはわかります、しかし相手が相手なだけに
油断めさるな」と、左近にしてはきつい言葉だ。
思わず三成は振り返り聲を荒げた。

「組が違うと友にも成れんのか?」
いつもそうだ。
三成は養子という身分でありながら豊臣に期待されている。
将来はある程度約束されていた。
この稼業に思うところが無いと云えば嘘になる。
三成が厭だと云えば養父も養母も強制はしないだろう、
しかし三成は自分を拾って呉れた恩に報いたい。
同門の組の系列の歳の近い者には子供の頃から
その為に随分嫌がらせをされた。
その度に相手を遣り返し、今ではいっぱしの喧嘩屋である。
下らないことだが、三成は決して裏切りも
理不尽な暴力も赦さない。
本当に心から友人に成れそうな者に出逢ったことが無かった。
( 曹丕に出遭うまで )
だから互いに学校だけは家のことを気にせず
友人らしい付き合いをしようと話した。
曹丕は意外そうな顔をしてから、三成の決意を見たのか
頷いた。曹丕は生涯の友になると三成は確信している。

簡単な始業式を終え、三成は曹丕を伴い
昼食に出ようと校門を潜ったところで
異質なグループが目に入る。
下校する生徒は遠巻きにそのいかにも柄の悪そうな
集団を避けるように歩いていた。
「・・・」
知っている顔だ。
以前三成がコンビニで(一応)喧嘩を仲裁した男達の
一部である。三成の出自を知っているものは
いないようだったから、学校を探して御礼参りといった
ところか、都内屈指の公立高校前で待ち伏せとは
随分な嫌がらせである。
三成は立ち止まり、背後の曹丕に云う。
「すまん、曹丕、今日はちょっと付き合えん」
云った瞬間、三成は眼を見開く、
問答無用で曹丕がリーダー格らしい男を殴り飛ばした。
予想だにしていなかった行動に男達の反応が遅れる。
一瞬茫然とした三成は、次の瞬間笑みを浮かべ
参戦した。
とにかく目の前の男を殴る。
殴り返されてもただ殴る。
時には蹴りを入れひたすらに殴った。
この際だ、人目など気にしてはいられない。
曹丕を見れば何処か愉しげに笑っている。
それが可笑しくて不意に湧きあがる高揚感に
酔い知れながら三成は相手を捩じ伏せた。


07:喧嘩上等

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