※三丕パラレルマフィアものですのでご注意下さい。


その男と出遭ったのは、昼も三時を過ぎたころのコンビニだった。
ピ、ピ、と商品を読み取る機械音の後に店員が「1123円です」
と云うと男はごそごそと財布を取り出し、中身を確認する。
その男の手がぴたりと止まったので、ふと前を見れば、
千円札一枚だ。持ち合わせが無いのを店員も悟ったのか、
「カードでもお支払できますが・・・」と遠慮がちに発言した。
しかし、男は、困った様子で「いや、すまない、カードは・・・」
しどろもどろになって困り果てているが困っているのは店員と
そして後ろに並んでいる三成だ。察して欲しい。
三成は、ち、と舌を打ち、それから自分の商品(欲しかったのはモーニングだ)
をレジに出し、「一緒でいいから会計を」と云って、
男の分も支払い、茫然とする男を放って店を出た。
見ず知らずの男に奢ってやる義理など欠片も無いが
なんとなく、止む負えないと思わせる不思議な男であった。

「待ってくれ!」
信号を渡り終えた三成に、慌てて駆け寄ってきたのは
男だ。恐らく先程のコンビニの男だろう。
よく見れば随分と綺麗な顔をした男だった。
モデルか何かだと云われれば納得できそうな容姿である。
「すまなかった、今は現金の持ち合わせが無いが、必ず返す」
ええと、と男が言葉に詰まったので、三成は察して名乗った。
「石田三成だ」
「私は・・・し・・・子桓だ・・・!」
流暢だが何処か発音に特徴がある。
「中国人か?」
子桓と名乗った男は弾かれたように顔をあげ、
取り繕うように言葉を紡いだ。
「あ、ああ、留学で・・・」
その遣り取りに三成はぴん、とくる。
( ・・・ウソだな・・・ )
どだいこんな留学生が居るものか、そんなもので
納得できるものでは無い。ちらりと見た上品な財布に入っていた
カードはブラックだった。
( どこぞのぼんぼんか・・・ワケアリか・・・ )
カードが使えない理由があるのだろう、その上現金は
千円札一枚、それに会計したものは歯ブラシセットや、
当座の生活用品のようだった。
身成りがいいだけにどうにもそういったものが似合わない男だ。
普段ならこんなことは気にも留めない三成だったが、
既に関わっている、それにいらぬお節介を焼いたのも三成だ。
ええい、ままよ、と言葉を続ける。
「訳ありのようだが、アテはあるのか?」
子桓は目を泳がせしどろもどろに言葉を紡いだ。
「・・・いや・・・その・・・」
その様子に三成は、ふう、とため息を吐き、
財布を取り出し、中に入っていた札束から五枚ほど抜いて
子桓に差し出した。
「当分はこれで凌げるだろう、ではな」
五万あれば当座は大丈夫だろう、底尽きる前に仕事でも何でも見つければいい、と
三成はそのまま札を手に唖然とする子桓を置いて帰路についた。
そもそも雑誌を買いにきたのだ。早々に帰るにかぎる。
その男が言葉通り金を返しに来るのだとはその時は微塵も思っていなかった。


01:足りない123円
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