19:腕枕or膝枕
※「10:ぶかぶかのシャツ」設定

三成と曹丕は幼馴染である。
家だって向かい会わせ、親の仕事だって同じだ。
幼い頃から当たり前のように互いの家を行き来して来たし
当たり前のように傍に居た。
故に互いのことは互いが一番よく知っているのだ。
しかし三成は最近そういった繋がりが少し変わりつつあるのを
自覚していた。

曹丕は字を子桓という。
三成にとって何よりも大事で、息をするのと同じくらい
傍にいるのが当たり前の存在である。
しかし互いに成長期で、身長も伸びてきた。
(悔しいが身長は曹丕の方が少し上である)
幼かった身体は痛みと共にしなやかに伸びてきている。
聲だって少し低くなってきた。
つまり少しづつ大人に近付いているのだ。
それに伴い三成は曹丕を注意深く観察した。
勿論幼馴染に抜かされるようなことがあってはならない。
その為でもあるが、(ちなみに身長を伸ばすための弁当は
未だ左近によって継続中であった)
最近ではちょっと違う方向へと向きつつあった。

曹丕である。
曹丕は勿論幼い頃から見慣れたあの曹丕なのだが、
気付いたのだ。
その少し長い睫や、家の方針でずっと伸ばしている長い髪、
一つに結われたところから見える項、
長い指に、静かに話す言葉、
ちょっとした仕草や癖、
そして整った容姿、
ずっと傍に居るから気付かなかったが、
最近曹丕の周りが騒がしい。
学校でもやれ誰それに告白されただとか、
誰それ先輩が曹丕を狙っているだとか、
そんな話題をよく耳にする。
勿論三成とてそんな話は沢山ある。
しかし端から断っているのが常だった。
三成も曹丕も互いにそういった話をすることを避けている。
だから今日も教室にピンク色の袋を手に曹丕の前に現れた
他クラスの女子の話はしなかった。
曹丕が何も云わないので三成も訊かない。
これは暗黙の了解のようなもので、
訊いて仕舞ったらいけないような気がした。
曹丕に限って誰かと付き合うなど無いとは思うが、
(何せ曹家はややこしい家である)
矢張り気に成る。
「ええい・・・!」
三成は伏していたベッドから立ち上がり、
どたどたと階段を降りた。

「殿、何処へ行くんですかい?」
左近の問いに、「曹丕のとこ」
と叫んで家を出る。
この時間ならもう泊まり確定である。
ものの数分も経たぬうちに曹丕の家の門まで着いて、
門の前に立っている組の者に開けてもらう。
(向こうも殆ど毎日こうなので気にしない)
そのまま「お邪魔しまーす」と一声かけてから
曹丕の部屋へ上がった。
「なんだ?三成か」
曹丕は振り返り三成を見た。
どうやら宿題を片付けていたらしい。
風呂上がりなのか、いい匂いがした。
「茶を持ってこさせよう」
曹丕が扉を出て、家人に頼むのを見届けてから
三成は傍に在った大きなビーズクッションを抱き込んで
曹丕のベッドにごろんと横になった。

「今日は泊まるか?」
「そうする」
曹丕の言葉に頷いて三成は曹丕を見る。
「植がマリオカートでどうしてもクリア出来ない個所が
あるんだと、後で見てやってくれないか?」
曹丕の言葉に、ああ、とおざなりに応え三成は
宿題に向かう曹丕を見る。
矢張り綺麗だ。
ぼんやりと曹丕を見つめてそう思う。
クラスで一番可愛い女の子よりも、
綺麗と持てはやされる芸能人よりも、
「きれいだ」
曹丕が一番綺麗だと、三成は思う。
手を伸ばせばそのさらさらとした髪に触れられる。
その薄い色の瞳も何もかも全部、
三成には宝物のように輝いて見える。
そして不意に気付いた。

(好きだ)
ああ、これが、
(好きなんだ・・・)
「子桓は誰か好きな奴はいるのか」
「何だ、急に・・・」
「別に、ただ訊いただけだ」
コンコン、とノックされたので、曹丕は部屋のドアを
開ける。女中がお茶とお菓子を持ってきたようだ。
曹丕はそれを受け取り、礼を云ってから
ドアを締める。
机の上に盆を乗せ、洗練された仕草でポットから
茶を注いだ。
「そうだな・・・」
曹丕は少し考える仕草を見せてから、注いだお茶を一口飲んだ。
「将来はどうせ父が決めた相手と結婚するだろうし、
特に無いんじゃないのか」
その言葉に三成は、ぱっと顔を上げ、曹丕を見る。
「では誰も好きじゃないんだな!」
「ああ、今のところ特には・・・」
その言葉に三成は起き上がり、ばんばん、とベッドの
シーツを叩いてこっちへ来いと曹丕を促す。
「なんだよ?」
どうした?と寄ってくる曹丕に抱きついて
三成は曹丕を腕に抱き込んだ。
「お前が誰も好きじゃなくてよかった」
その言葉に曹丕は苦笑し、どうした?と少し優しい聲で
三成の髪を撫ぜた。
それがあまりにも優しい仕草だったので
三成はそのまま曹丕を腕に抱き込んで寝入って仕舞う。
その様子を慎重に見つめていた曹丕は笑みを浮かべ
すっかり眠りに落ちた三成に、そっと曹丕が呟いた。
「私はお前が好きなのだがな」
その言葉は勿論眠る三成には届かないまま、
優しく夜は更けていく。

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